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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第2回実施分)

2024/03/08

第2回「個体群動態――洞爺湖中島のシカ」(1月30日)の質問と回答です。

Q1 栄養診断で、なぜ、貧栄養状態は、赤みがかったゼリー状なのか?
A1 骨髄内はそのほとんどを脂肪が占めますが、脂肪代謝が進むと水分量が多くなり、貧栄養状態に陥ると骨髄内容物は赤味がかったゼリー状になります。

Q2 カイバブ高原の議論。結局生息個体数の正確度が不明なので決着がついていないということでしょうか?
A2 はい、明確な決着がついたわけではないが、Leopold(1943)の捕食者説は否定されていないと言えます。
Leopold (1943)の捕食者説に対し、Caughley (1970)は、センサスデータの信憑性に対する疑問から、爆発的増加の存在を疑い、あったとしたら、家畜の競合からシカが開放されたからだと、食物説をとなえました。これは、Cauhgley仮説にすぎない。それに対し、Binkley et al. (2006)は樹木年代学的手法で、爆発的増加の存在が示唆されたこと、家畜がそれほどいなかったことから、Cauhgley 説を否定しました。

Q3 エゾ鹿は、本来北海道にいなかった動物だった為に植物を食べつくしてしまうが、本来(かなり昔になりますね)の生息地では、そこまで食べつくさなくても生きていける。というような仮説は無謀でしょうか?
A3 エゾシカは本来北海道に存在しており、人為的に高い捕獲圧がかかっていたことが想定されます。

Q4 飯島さんの2023年の論文のように、現在のシカ個体数は歴史的に多いことが示されたと思いますが、過去のシカの個体数と植生へのインパクトとの関連性についての知見はありますでしょうか?
A4 飯島さんの論文によると、エゾシカの個体数は江戸時代には現在の個体数よりも多いことが示唆されていますが、高山植生は絶滅することなく残っています。

Q5 閉鎖環境の知見からシカは利用する植物を変えながら生き延びることがわかりました。農作物(牧草が一番と思いますが)におけるシカの嗜好作物について教えていただけないでしょうか?
A5 唐辛子やピーマンなどの刺激性の高い農作物は食べませんが、あとはほとんどすべての農作物を利用すると思います。

Q6 「成獣雌の生存率が高いことが、高密度維持に貢献している」とありましたが、これはPhase2の増加率に対して言われているのでしょうか?
A6 初回の爆発的増加によって植生がなくなったPhase2とPhase3が該当します。餌がなくても成獣雌の生存率が高いので、高密度が維持されるという点がポイントです。

Q7 例えば、三重県、岐阜県を移動するいのししの真の個体数の算定はどうするのですか?
A7 移出・移入のある個体群の推定は難しいですが、短期間であれば個体群が閉鎖されていることを想定して推定します。そもそも、イノシシの個体数推定法は開発段階です。

Q8 好きなものから食べていくため、嗜好性が高い植物からなくなっていき、植生が変化していくように思えるのですが、植生がほぼ変化しない適正な頭数(何㎡に何頭など)はあるのでしょうか?
A8 第2回および第3回の講義でもお話しますが、環境収容力に対する相対的密度という概念を用い、環境収容力の20%程度までに個体数を制限する必要があります。平方キロ当たり数頭レベルの密度です。

Q9 大量死が起きる仕組みはわかりましたが、中島のような環境の場合、キツネなどの肉食動物による死体の利用が多くは無いと思いますが、残された死体の処理がどの様に進むのか疑問です。また、衛生面に問題が発生し、病気の蔓延に繋がるなどにはつながらないのでしょうか?
A9 中島には中型肉食動物は存在しませんが、カラスや猛禽、そして糞虫類が腐肉を食べます。島でなければ中型肉食動物やクマ類も加わるので、1週間程度で骨と皮になります。

Q10 もし洞爺湖中島のエゾシカが現在の環境のまま何十年も存在していった場合、樹木の世代交代が起こらないまま現存の樹木が枯死し、エゾシカの重要な代替餌資源である落葉の供給量が減少すれば、シカの個体数も自然に調節されていくのでしょうか? 個体数がある程度減少した段階で豪雪の年があれば、「自然」に絶滅することもありえるのでしょうか?
A10 数十年程度で落葉の供給量が減少することにはならないと思いますが、風倒木が増えることによって、厳しい冬に気象カバー(避難所)がなくなり、大量死が起こりやすくなり、まれにみる豪雪があれば絶滅の可能性もあります。

Q11 講義の内容ではありませんが、質問への回答の中で、今後の中島の管理方針について「根絶」とのお話がありました。驚きでした。なぜこの選択に至ったのでしょうか? エゾシカが人為的に中島に持ち込まれたものだからでしょうか? 繁殖圧力を間引きによって管理し続ける事の費用或いは人的資源の不足でしょうか?
A11 私は検討委員のメンバーではないのですが、ご指摘のとおりもともと島には生息していないことから排除して、植生回復を図ることが目的と伺っています。環境省の事業で間引きを実施しています。

Q12 現在拡大している本州のシカも爆発的増加なのか?崩壊はあり得るのか? 共存の為の施策とは?
A12 捕獲圧を高める政策をとっているので増加は抑制されていると思いますが、高止まりでしょう。崩壊は高密度となった越冬地で豪雪が到来すれば起こります。共存のためには、資源的な利用も含め捕獲圧を高めることです。

Q13 質疑応答でクマザサの一斉開花に伴うシカ個体群への影響について、他の種類のササが資源としてあるから大きく変化しないだろうとのことでしたが、ササの分布に地域差があることから、クマザサ主体の地域に限ると影響しうるという解釈でも良いのでしょうか?
A13 これは、今後の北海道のシカのモニタリング結果をみて、判断ください。

Q14 兵庫県のシカは生息個体数を人為的に減らしたにも関わらず、林内における下層食性の回復が見られません。シードバンクの死滅により、植生の回復能力が落ちているということでしょうか?
A14 ご指摘のように高密度状況が長く継続すると、回復力(レジリエンス)が落ちているので、低密度状態を長期的に維持する必要があります。

Q15 標識再捕獲法に関して、標識個体を選出する時点での偏り(年齢や群れなど)を防ぐための具体的な施策はなされているのでしょうか。完全ランダムなのでしょうか?
A15 完全ランダムではありませんが、さまざまな捕獲方法を用いてたくさんの捕獲場所で捕獲し、選択的捕獲にならないように努めました。

Q16 洞爺湖中島のシカ問題について、北海道庁が主体的に携わっていた、との話でしたが、国立公園の環境省や林野庁で会議の実施程度で対策や調査の事業はされていなかったのでしょうか? もう1つ質問があり、シカを観光目的で中島に放した、ということだが、そのことについて関係機関への相談などはあったのでしょうか?
A16 対策や調査の事業はなかったので、せめて最後の生息数調査くらいはさせてほしいというのが、当方の希望でした。島にシカを放すにあたっては、事前打ち合わせは無かったと思います。もしあったら、行政は反対していたでしょう。

Q17 ササ衰退後、それまで被食されにくかったハイイヌガヤが被食されるようになり、被植率が減少したことに関連しまして、植生衰退後に不嗜好性植物が被食されるようになった事例は他にもあるのでしょうか?
A17 京都大学芦生研究林で同様な報告がされています。
Nakahama, N., Furuta, T., Ando, H., Setsuko, S., Takayanagi, A., & Isagi, Y. (2021). DNA meta-barcoding revealed that sika deer foraging strategies vary with season in a forest with degraded understory vegetation. Forest Ecology and Management, 484, 118637.

Q18 中島のシカの頭数動態は安定期に入ったとのことだったが、今後はどのような変化が予測されるのでしょうか?
A18 2013年度から間引きが始まっているので、その後の観察はできませんでした。

Q19 現在は、技術が発達しドローンやカメラ撮影での個体数調査も行われていると思うが、現代であってもヘリコプターや再捕獲での調査の方が有用なのでしょうか
A19 最新技術の進歩は目覚ましいので、いずれはそちらが用いられるでしょう。

Q20 ①日本のシカの食性の可塑性はだいぶ特殊な例なのでしょうか? 日本の自然環境に起因するものなのでしょうか? ②もし中島のシカについてそのまま自然な推移を見守った場合、落葉などを食べ続け、高密度を保ったまま増加と崩壊を繰り返すと予想されますか?
A20 ①他種のシカに比較して、質の悪い植物を消化する能力が高いことが報告されています。その原因はまだわかっていません。
②落葉は豪雪が到来したら利用できなくなるので崩壊が生じやすいので、ご指摘のような個体数変動をすると思います。

Q21 気候変動も個体数密度に影響しうるでしょうか?
A21 はい、暖冬は初期死亡(子の死亡)を低下させるので、個体数増加に寄与します。

【次回の講義についての事前質問】

Q22 知床のシカはサハリンなどから移動してきたものですか、それとも日本の古来種ですか?

A22 ニホンジカは大陸起源で、そのルートにはいくつかの説があり、エゾシカについて、サハリン経由と朝鮮半島経由が候補としてあげられています。

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