お知らせ ワイルドライフマネジメント

オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」アンケートへの質問にお答えします。(第1回実施分)

2024/07/10

第1回「有蹄類の爆発的増加―個体群動態をめぐる議論」(1月16日)の質問と回答  

講座終了後にお答えいただいたアンケートで皆様からお寄せいただいたご質問に対しては講座中にお答えしましたが、文献等の紹介もあり、また、「聞き逃した」「再確認したい」というご要望もお寄せいただきましたので、今後以下のような形でこのブログに掲載いたします。今回は第1回のアンケートに寄せられた質問への梶先生からの回答を掲載いたします。なお、ナンバリングは回答者順にしてあり、回答は質問内容によってある程度分類して配列しています。このため、質問・回答番号が飛び飛びになっています。予めご了承ください。

Q1 シカやクマ等の爆発的増加と環境収容力の関係の考え方が興味深かったです。環境収容力と一言で言っても、様々な植生や食物連鎖の生態系が関係しており、下草等の餌資源を全て使い切ってしまう頃には生態系が連鎖的に再生不可能になっているかと思います。そのため、環境収容力の何割にとどめて頭数管理を行うのがちょうどよいのか、という視点が必要になるのでしょうか。環境収容力を念頭に置いた野生動物頭数管理の重要性が分かりました。人が暮らす前は誰も頭数管理を行わなくてもよかったのが、なぜ今は頭数管理を行わないと再生不可能なほど生態系が壊れるところまでいってしまうのでしょうか。
A1. 「環境収容力の何割にとどめて頭数管理を行うのがちょうどよいのか」については、第2回の本日の講義で「適正密度」の概念について紹介します。
2つめの質問に関してですが、ゲノム解析という遺伝学的手法を用いた過去10万年から現在までについて、北海道と兵庫のシカの有効個体サイズの変動を推定した研究があります。この研究から、これらの2地域のシカは過去最大水準に達していることが示唆されました(Iijima et al. 2023)。この有効個体サイズの変化は、気候変動や捕食者の根絶ではなく、人による狩猟活動の変化によってもたらされたと推測されています。すなわち、人によるシカの利用の低下が今日のシカの爆発的増加を招いたと考えられます。
IIJIMA, Hayato, et al. Current sika deer effective population size is near to reaching its historically highest level in the Japanese archipelago by release from hunting rather than climate change and top predator extinction. The Holocene, 2023, 33.6: 718-727.

Q3. ライニ―の爆発的起動モデルの停滞期とは
A3. 個体数がピークに達した後の「停滞期」で、ピーク相が維持される期間です。

Q4. 数理モデルの実践的理解。モデルを自分で触りたいと思うが、どこから始めれば良いかアドバイスが欲しい。
A4.  鷲谷いづみ 監修・編著/梶 光一・横山真弓・鈴木正嗣 編著 (2021) 『実践 野生動物管理学』(培風館)14章「野生動物の個体数推定と動態予測」は初学者に適しています。

Q6 各モデルにシカ類だけでなくトナカイやアイベックス等も入っていましたが、種による差異は考慮しなくてもよい範囲でしょうか?
A6.種によって産子数や増加率などの生態的な違いはありますが、対象としているのはいずれも反芻有蹄類で、植生と個体群との相互作用を見る点では問題ありません。

Q7. 今、ヒグマの生息数が増えているのは「①シカ猟の内臓の放置での餌化」「②クマ猟師減少」だ、と友人から聞きましたが、仮説でしょうがそのような傾向があるでしょうか?それともただの根拠のない噂なのでしょうか?
A7.講義で紹介しましたように1990年から春グマ駆除を中止し、30年以上にわたり保護政策をとってきたことが個体数増加の大きな要因です。

Q9.局所的な個体数増加に伴う動態については理解が進みましたが、現在のように全国的に個体数が急増している状況で、移入・移出が存在するような本土でのクラッシュは起こりうると考えられますでしょうか?また、歴史的に見れば現在程度の個体数が通常であり希少種に影響がない地域では人為的な介入を行わない判断もありうるとの説(角田裕志先生の2019の論文など)について梶先生のご見解をお伺いしたいです。
A9.爆発的増加後のクラッシュは、採食に対する耐性が乏しい餌資源、移動の制限、激しい気象が原因とされており、開放系ではクラッシュは生じにくい。開放系では、豪雪によって明治期の北海道、最近では59豪雪(1984年の豪雪)で、栃木県日光などの高密度となった越冬地で、クラッシュが生じています。
A1で紹介したように過去には現在程度の個体数水準の時代もありました。しかし、高密度で希少種に影響が出ていない地域はありません。明治期以降に、景観構造が大きく変化をとげたことにより、越冬地周辺の植生に強い影響を与えるようになったことが原因だと考えています。『ワイルドライフマネジメント』(第8章)

Q10. 北大クマ研の活動で、危険に遭遇したことはありませんか。梶さん自身、メンバーも含めあったことはありませんか?
A10. 近くでヒグマと遭遇したことはありますが、少し距離があったので退避できました。後輩がクマの冬眠穴に入ったら、そこにクマがいたということがありました。幸い無事でした。

Q14. 2点質問があります。(1)動物が増殖して、生息範囲(A)での生存が厳しくなってくると周辺地域へ移動するとのことでしたが、逆に言えば人里に降りてくる動物(移動してきた動物)だけ処分しておけば、生息範囲(A)の動物は長期間的に見ると一定の上下限の範囲を推移すると考えて良いのでしょうか?(2)現在問題になっている害獣被害は人の数が減ったため、動物の生息範囲が拡大してしまい、人里(動物にとっての周辺地域)へ移動する動物の数が人の処分できる量を超えていることが問題と考えて良いのでしょうか?
A14. (1)周辺に出てくる動物を捕獲するのは利息分の内数のため、(A)の個体群は高止まりで維持されます。(2)については、ご指摘のとおりです。後日、講義でお話する予定です。

Q15 爆発的に増えるのは妊娠率と生まれた子供の死亡が少ない事で理解できるが2・5年で6000頭にもなるシステムが分からない
A15. 2.5年というのは倍加時間(個体数が2倍になる時間)を示しています。

Q16. 現在シカに比べてデータがはるかに少ないシャチなどの海生哺乳類に関しても、データさえとることができればこの個体群動態のモデルを当てはめて考えることができるのでしょうか。
A16. 現在、ドローンやAIを用いた画像解析技術の開発が急速に進んでいることから、海棲哺乳類でも個体群動態の研究が進むと思います。実際にトドでは個体群動態の研究が実施されています。

Q17. 質疑応答で仰っていた、環境収容力を加味したエゾシカの個体数調整を行うと植生が食い荒らされるというのは、環境収容力に余裕があると手が付けられないほどの急激な個体数増加が起きるから。という理解でよろしいですか。
A17.はい、そのとおりです。その時の個体数と環境収容力に大きな開きがある場合には、爆発的な増加につながり、その増加途上で植生に強い影響を与えます。

Q19. テキストに冬期のエサ供給量が個体数の制限要因となりうるとありますが、冬期に果樹園の食害から守る事も個体数制限要因になりうるでしょうか。
A19. ある地域のすべての果樹園が柵で囲うなどすると、餌を制限することができますが個体数制限になるかどうかは、他の餌がどれだけあるかによります。

Q21. 質疑応答で仰っていた、環境収容力を加味したエゾシカの個体数調整を行うと植生が食い荒らされるというのは、環境収容力に余裕があると手が付けられないほどの急激な個体数増加が起きるから。という理解でよろしいですか。
A21. はい、そのとおりです。

Q22. 環境再生医です。受けた教育の背景は文系です。例えば今回の動態サーベイのグラフや数式など、理解はできますが、自分で最初から考えなさいと言われると齟齬なく再現はできません。今後の講義はこのような段階のスキルでも修了できますか?
A22. 異なるバックグラウンドの方にもワイルドライフマネジメントの全体像を理解していただくのが、本講義の目的です。そのような講義になるように努めますので、ぜひ、最後までお付き合いください。

教科書『ワイルドライフマネジメント』に記載、あるいはこれからの講義で取り扱う質問
Q2. 4つのモデルの動態の違いを起こすメカニズムがかなり曖昧で恐らく観測データから推測した概念モデルなのだろうと思いました。もう少し現実の有蹄類の行動生態(この後出てくる代替餌への移行など)を反映させたモデルはないのでしょうか?
A2. 4つのモデルは概念モデルです。その構造については、『ワイルドライフマネジメント』でも引用している以下の論文を参照ください。行動生態を反映させたモデルは未見です。
Forsyth, D. M., & Caley, P. (2006). Testing the irruptive paradigm of large‐herbivore dynamics. Ecology, 87(2), 297-303.

Q5. 屋久島の閉鎖的空間は環境収容力などが出しやすいと感じましたが、そのような研究はありますでしょうか。また、逆に土地がつながっている本土でのシカの個体群管理を行う際に環境収容力はどのように検討するべきでしょうか。
A5. 屋久島の環境収容力に関する論文としては、以下のものがあります。
揚妻直樹; 杉浦秀樹. 捕獲圧のない地域におけるヤクシカ密度指標の 18 年間の増減: 屋久島世界遺産地域・照葉樹林の事例. 保全生態学研究, 2021, 26.1: 1923. 『ワイルドライフマネジメント』82-83頁も参照のこと。
開放系での環境収容力測定は困難です。その代わりに生息数の増加に伴って生じる生態的指標(個体群パラメータの変化、植生への影響度を)を用いることを推奨します。『ワイルドライフマネジメント』97頁

Q8. 余剰資源の具体例があれば教えていただきたいです。
A8. 年間生産量以上の蓄積が最も多いのは、ササです。そのほか、樹皮も該当します。これらは初回の爆発的増加で消失します。第2回講義でお話します。

Q11. 現在、日本の各都道府県でニホンジカの個体数推定が行われていますが、ある地域の植生を保全するためには平均化する範囲が大きすぎて必要な情報がえられません。地域の保全の課題のために調査を行うとしたら、廉価で簡便で必要最小限の推定値が得られる一番の方法はなにでしょうか。どれくらいの期間と費用で可能ですか。
A11. 第4回 定点観測と長期モニタリングのときに触れたいと思います。

Q12. かつての知床のシカの1才は3尖だったり、成獣メスと同じサイズだったり、非常に栄養状態が良かったことがうかがえた。という話がありましたが、おそらく侵入初期で知床のエサが豊富だったことが要因だと思うのですが、では、なぜそれまでそのようなパラダイスへ侵入しなかったのでしょうか?やはり冬の雪の厳しさでしょうか。夏はパラダイスだが、冬は地獄というような状態だったのでしょうか?だとすると侵入初期は季節移動的に夏だけ来るのを皮切りに、小雪化や雪への適応で徐々に定着していくというようなストーリーなのでしょうか?おそらく多要因が絡み合い起こっており明確な答えを出せるものでもないかと思いますが、先生なりのお考え等ありましたらお聞かせいただきたいです。
A12. 第3回講義で知床のシカの絶滅と再分布の話をします。

Q13. 環境容量(面積や資源)当たりの哺乳類の生息数が決まっているのではないでしょうか。だから人間が減れば動物が増え、人間が増えれば動物は減る現象が生じるのではと思いました。人口動態、狩猟者数と相関関係があるかどうかですね。
A13. 第10回、13回の講義で人口縮小時代の野生動物管理についてお話します。

Q18. 野生動物の管理は西洋的な視点が色濃く出ているように感じられたが、東洋の自然観に基づく取り組みはあるのでしょうか?
A18. 第6回、第7回の講義で取り上げます。『ワイルドライフマネジメント』6-7章

Q20. 爆発的な増加をした個体数は余剰資源まで食べ尽くして1回目の崩壊を起こすと理解しました。余剰資源がない状態での2回目以降の崩壊は何が原因で起こるのでしょうか。
A20. 第2回、3回の講義でお話します。

Q23. また講義内容について、参考・関連書籍があれば教えていただきたいです。
A23. 講義のなかで紹介するように努めますが、このような本を紹介してほしいとの要望をください。

以上

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