【Interview】第3回:早矢仕有子さん
【Interview】では、知床自然大学院大学設立財団やワイルドライフマネジメント、知床の自然に関わる方々を紹介していきたいと思います。第3回目は、シマフクロウ研究者(北海学園大学教授)で、当財団賛助会員の早矢仕有子さんです。
■早矢仕さんは絶滅危惧種のシマフクロウを長年研究されていますが、現在のシマフクロウはどんな状況ですか?
シマフクロウは現在、北海道内の道東地域を中心に140羽ほど生息していると推定されています。一時期に比べれば増えましたが、安心できる状況でもありません。国は1984年からシマフクロウの保護事業を行ってきました。それは主に給餌と巣箱の設置です。もう30年以上経ちますが、今もその対策の根本は変わっていません。
昔は全道にいたシマフクロウですが、記録によると、道南では20世紀に入ってから見られていませんし、札幌は昭和20年代が最後。全道的にみると、生息環境を取り戻していくにはまだまだな状況です。
知床は他地域に比べてシマフクロウが生息するのによい環境です。餌となる天然の川魚が豊富にあります。世界自然遺産に登録されてから河川工作物(砂防ダムなど)の改良が行われ、生息環境の改善が進んでいます。でも、そんな知床でもまだ巣箱に入って繁殖しています。シマフクロウが営巣するための大きな広葉樹が足りないのですね。
私は自然の中で自活するシマフクロウを増やしていきたいですし、道内でもそれが一番にできるのは知床だと思います。残念ながら私が長年調査地にしている十勝川上流域では当分達成できそうにありませんが、知床のシマフクロウはもっとヒトの介入を減らせると思います。
■早矢仕さんがシマフクロウ研究を始めた理由は何ですか?
大阪府の出身ですが、北海道に親戚がいて、幼い頃に来た北海道の印象がすごく良かったので北海道大学に進みました。動物が好きで獣医になりたかったのですが、獣医学部は難しくて農学部に・・・。大学4年の時、研究室の先生にシマフクロウの委託調査がきまして、やらないかと声をかけられたのが始まりです。それまであまり進路を考えていなかったのですが、3年間の調査だったので大学院に進み、まだまだ足りないなと博士号を取得し、今まで研究を続けてきました。
■知床を教育の場とすることについてはどう思いますか?
知床を研究フィールドにして育った研究者はたくさんいます。でも、みんな遠方の大学などに所属して知床に来ている。もしフィールドと所属先が近くにあれば、もっと効率よく勉強できると思います。私も学生時代は長靴を履いて、現場でひたすらデータを取る!という生活をしていましたが、先生や仲間はそばにいないし、当時は文献なども簡単に手に入りませんでした。フィールドにいるのはもちろん大事ですが、それに加えてもっとアカデミックな勉強を並行してできればよかったなあ、と思うのです。知床に教育機関があれば、それが可能になりますよね。
あとシマフクロウの研究といっても、今は地域の農家、林野庁や環境省の行政職員など「人」と向き合う機会が断然多くなっています。自分の意見をきちっと伝え、相手の話を聞き、そこから学ぶ柔軟さなどが求められています。人間力や常識力、合意形成能力というのでしょうか。動物だけ見ていればいい、というものではないのです。それは普通、大学で教えてくれません。知床のような現場で、多様な視点を学べるようになればいいと思います。
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早矢仕 有子(はやし・ゆうこ)
大阪府出身。北海道大学農学部卒業。札幌大学教授を経て、現在は北海学園大学教授。環境生物科学の科目を担当する。環境省の野生生物保護対策検討会シマフクロウ保護増殖検討会の委員や、日本鳥学会の副会長も務める。
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