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知床のヒグマ対策

6月18日、早朝の札幌市街地にヒグマが出没し、4人に重軽傷を負わせたとのニュースが報道されました。問題のヒグマはその日のうちに駆除されましたが、この事件は住民に対して大きなショックを与えたようです。札幌市はこれまで電気柵の購入補助や啓発活動をクマ対策として実施してきたようですが、今回ヒグマが出没した東区では過去に出没事例がほとんどなく、報道の中では市の対策の見直しについての言及も見られました。

ヒグマの出没を伝える記事 (北海道新聞 2021.6.19朝刊)

 

世界有数のヒグマの高密度生息域である知床では、「知床半島ヒグマ管理計画」2017年策定)が対策の指針となっています。この管理計画の特徴の一つは、知床半島を5つのゾーンに区分し、各ゾーンの特性を反映した対策をゾーンごとに定めているところにあります。青色・水色で示されているゾーンは定住者・利用者が少なくかつヒグマの重要な生息地となっており、ヒグマへの人為的介入は最小限にとどめるとしています。一方赤色やピンク色で示されているゾーンは市街地や産業活動が一定数見られる地域であり、追い払いや場合によっては捕獲するとしています。ヒグマに対してだけでなく、人間側への対策もゾーンの特性に合わせて定められています。

「知床半島ヒグマ管理計画」とゾーニング図

 

現場におけるヒグマ対策としては、ヒグマの出没に24時間対応出来るシステムが構築されているほか、定期的な巡視が実施されています。また電気柵の設置や草刈り、誘引物の撤去等、ヒグマの出没を未然に防ぐための取り組みが行われています。さらに小・中学生を対象に行われているクマ学習をはじめとして、住民や観光客に向けて様々な情報提供と普及啓発活動が展開されています。こうした数々のヒグマ対策は行政や知床財団、猟友会、地元企業、個々の住民等、実に多くの人々によって担われています。

ヒグマ対策について知床財団石名坂研究員から学ぶ(知床ネイチャーキャンパス2019より)

 

知床国立公園内でのヒグマの目撃は珍しいことではなく、周辺地域への出没も今年に入って何件か発生しています。加えて、知床には斜里町側だけでも毎年100万人以上の観光客が訪れます(令和2年度は新型コロナウイルスの影響で70万人強でした)。こうした状態にもかかわらず、知床ではヒグマによる死亡事故はハンターを除いて今日に至るまで発生していません。これは上に述べた管理計画や地域の人々の様々な取り組みによるところが少なくないでしょう。

とはいえ、ヒグマの人慣れは知床の大きな課題となっており、事故を防ぐための取り組みは今後も継続して求められます。知床のヒグマ管理計画は5年ごとに見直しが行われることになっていますが、今年度はその5年目にあたります。年度末には、最近のモニタリングや住民の意見を反映した新たな管理計画が策定される予定です。

 

参考

・「『まさかこんな所に』 札幌市にクマ、早朝の住宅街騒然」『北海道新聞』(2021.6.18 電子版)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/556931, 2021.6.24最終閲覧.

・「住宅街でクマに襲われ4人けが 札幌・東区 猟友会が駆除」『北海道新聞』(2021.6.18 電子版)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/556830, 2021.6.24最終閲覧.

・「東区のクマ出没『想定外』遭遇の恐れ市街地でも 札幌市、対策見直しへ」『北海道新聞』(2021.6.18 電子版)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/557251, 2021.6.24最終閲覧.

・釧路自然環境事務所・北海道森林管理局・北海道・斜里町・羅臼町・標津町, 2017,「知床半島ヒグマ管理計画」http://hokkaido.env.go.jp/kushiro/kanrikeikaku.pdf, 2021.6.24最終閲覧.

・2020,「知床世界自然遺産地域科学委員会エゾシカ・ヒグマワーキンググループ令和2年度第2回会議資料 知床半島ヒグマ管理計画の改訂について」  http://shiretoko-whc.com/data/meeting/shikakuma_wg/r02/shikakuma_R0202_shiryo4.pdf, 2021.6.24最終閲覧.

 

(事務局・船木)

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