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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第13回実施分)

「ワイルドライフマネジメント」第13回「人口縮小社会が抱えるさまざまな課題」

講義アンケートへの質問の回答は、以下の通りです。

Q1 エゾシカの生息密度の増大が生態系に様々な悪影響を及ぼしていることは肌感覚としては感じていましたが、チョウ類の調査結果には暗澹たる気持ちになりました。これほどに明瞭な数値差が出ているとは、驚きました。
鳥や他の種類の昆虫など、研究されている事例があれば結果を知りたいです。
A1 以下の書籍が参考になります
生物間相互作用
柴田叡弌, 日野輝明編著 (2009) 『大台ヶ原の自然誌 : 森の中のシカをめぐる生物間相互作用』 東海大学出版会
昆虫と中大型哺乳類の影響
梶光一・飯島勇人編 (2017)『日本のシカ―増えすぎた個体群の科学と管理』
東京大学出版会 2017年8月 978-4-13-060234-1 256頁
鳥類群集
『兵庫ワイルドライフモノグラフ9-4』
ニホンジカの採食による森林の下層植生衰退と鳥類群集との関係を広域で評価する
https://wmi-hyogo.jp/pdf/publication/mono09/chapter_4.pdf

Q2 シカに下層植生の衰退のお話がありましたが、北海道ではササ類が非常に多いとい うイメージを持っていまして、個人的にはちょっと減って欲しいくらいだと思っていたのですが、北海道でもササが食べ尽くされてしまう可能性はあるのでしょうか?
A2 洞爺湖中島ではササが食べ尽くされました。そのほかにもシカの採食によってミヤコザサやクマイザサが激減した地域はたくさんあります。

Q3① (講義の)最後の方で利活用の話で考えていたのですが、食肉処理施設が増えれば利活用は増えると思いますか? それとも学校給食などで子供の時から舌を慣れさせておくことで将来利活用につなげる方が増加することの方がいいと思いますか?
A3① 両方必要だと思います。地域で利用して食文化とし、それを外へ広げることが重要だと思います。

Q3② 知床にソーラーパネルの設置の話があると思うのですが先生が見て野生動物への影響はどんなものだと考えますか。3mの壁で囲うという話があったと思うのですがヒグマの場合穴を掘ることができるので下から侵入してしまうのでは、と考えてしまいます。また防鹿柵の役割を果たしてソーラーパネルの壁のなかは植生が回復すると思いますか。 教えていただけると嬉しいです。
A3① 6月7日に開催された臨時の知床世界自然遺産科学委員会では、本問題が議論されましたので、公開されている議事録をごらんください。
https://shiretokodata-center.env.go.jp/meeting/kagakuiinkai_index.html

Q4 OneHealthアプローチとは?
A4 第14回の講義で説明します。

Q5 シカの過採食による生態系の破壊が起こってしまうと、その影響は不可逆的というお話が衝撃的でした。それを防ぐには柵で囲ってしまうとか、シカに対して非常に強い捕獲圧をかけるとかが必要なのかなと思いますが、その生息範囲の広さや移動能力、守りたい地域の広さを考えると実質不可能な気がします。生息密度が低いうちから個体数管理をするのが理想かと思いますが、被害が深刻にならないと自治体等は動いてくれないということもあり、現実的には難しいのかなと思います。捕獲、侵入防止以外に、なにか有効な手立てはあるのでしょうか。漁業で「とりすぎ」で魚が少なくなってしまったように、うまくシカを「とりすぎる」方法はないでしょうか?
A5 ニホンジカは海外では、シカのなかでは肉質がよいので狩猟獣としてはとても人気が高いです。縄文時代以来、日本人はシカ・イノシシを食べ続けていました。江戸時代後期から明治期にかけて、「とりすぎ」によってシカが激減しました。食べなくなったのは明治期にはいってからのたかだか1世紀くらいです。地域資源として、食べるという食文化を再構築しながら、個体数管理の仕組みをつくる必要があると思います。

Q6 下層植生の衰退が水生生物に与える影響についてのお話が興味深いと思いました。シカの食害を受ける前から調査する必要があるため、すでに食害の被害を受けている地域での調査は難しいでしょうか?まだ被害を受けていない地域との比較で評価するのは有効でしょうか?
A6 前回の講義でシカの下層植生衰退度と魚類相の変化の研究を紹介したように、広域スケールをとって、シカの影響の程度に応じた生物相の反応をみるのは、とても有効な方法です。

Q7 今回の講義の最後の方で、自然環境/自然観光資源の利用と保護に関するお話が挙がりました。自然環境は多くの人を惹きつけるもので、知床でも観光資源となっていると思います。また、自然公園も自然の保護と利用を主な目的として設置されていると思います。自然環境を活用した観光は、多くの人に自然の良さを知ってもらえると共に、野生動物やオーバーユースなど自然環境分野に関する諸問題を多くの人に知ってもらう機会になると思います。しかし、実際は社会の多くの人にとって、自然は楽しむけど自然に関する問題は行政や研究者など一部の人がやってる問題、という認識であることも多いという印象です。自然観光資源の利用により、野生動物問題などの問題を多くの人に認識してもらう機会になれば良いと感じますが、先生のお考えをお聞かせいただけますでしょうか?
A7 国立公園などの自然保護区の問題は、保全と利用をどのようにバランスをとるのかということで、世界的にも普遍的な課題です。知床五湖の高架木道は、利用調整をはかりオーバーユースを防ぐ良い事例で、事前の講習は良い学びの機会となっています。同様に、公園の入り口で、野生動物との関係などの学びの場があると効果的だと思います。

Q8 先生方が取り組まれていることは、今後必要になってくる事だと思われる。各都道府県単位でも取り組みが始まっているかと思うが、世間一般的には、行政・政治家も含めてまだ問題意識が足りないように思う。問題意識を根付かせるためには、小学校の義務教育の段階から社会問題として教えていく必要があると思うが、そのあたり幼少期からの教育についての今後の計画はあるのでしょうか?
A9 知床自然大学院大学設立財団では、これまで、⼤学⽣・⼤学院⽣・現職者・⼀般転職層、関⼼層を含む方を対象としてきましたが、それに加えて、⾼校⽣、幅広い⼀般、地元住⺠(環境・観光・地域資源・⼀般、中⾼⽣)にまで拡大することを予定しています。しかし、幼少期からの教育はとても重要だと思いますが、私たち組織はとても小さく、労力・予算も限られるので、手をひろげることはできません。知床ネイチャーキャンパスで学んだ方たちによる、活動の広がりを期待します。まずは、私たちの活動を賛助会員になって支援してくださるとありがたいです。

Q9 劣化した森林からの回復と不可逆性の説明の中で、阻害要因として「二次林の極端な暗さ」とういう項目がありました。回復過程における二次林はどのような状態(植生の構造等)なのか、どのような対策を講じれば、解決できるのかを解説頂けると嬉しいです。
A9 燃料革命の頃に管理放棄された旧薪炭林は、シカを減らしても、樹冠が覆われて暗い場合には更新ができません。一方、地上の稚樹は消失しても母樹や埋土種子が残っている場合には、伐採後にシカを一時的に排除すれば、植生を回復できます。伐採と柵の設置あるいはシカの低密度下が必要です。
Suzuki, M. (2022). Responses of Ground-Layer Vegetation and Soil Properties to Increased Population Density of Sika Deer and Environmental Conditions. In: Kaji, K., Uno, H., Iijima, H. (eds) Sika Deer: Life History Plasticity and Management. Ecological Research Monographs. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-16-9554-4_24
Suzuki, M. (2022). Successional Pathways of a Warm-Temperate Forest after Disturbance: Effects of Clear-Cutting and Herbivory. In: Kaji, K., Uno, H., Iijima, H. (eds) Sika Deer: Life History Plasticity and Management. Ecological Research Monographs. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-16-9554-4_25

Q10 地方行政職員の中で野生動物管理の専門知識を持った人の割合が非常に少ないこと、また過去10年間でほぼ改善されていないことに驚きを覚えました。多少の増員が2030年には計画されていましたが、国としてはこの程度の増員で十分と考えているのでしょうか? それともそのような人材の確保が難しく、この程度しか増やせないと考えているのでしょうか? 個人的には、アーバンワイルドライフの問題は年々増加、また深刻化しているので、現状もしくは2030年目標の数値では全く足りないと思います。
A10 ご指摘のとおりです。

Q11 丹沢山系の高山帯で管理捕獲されたシカの死体は、放置とありました。そのようなシカを食べたクマがOSO18のように肉食化が進む心配はないのでしょうか?
A11 丹沢山系では、2000年を境にクマが春先に食べるシカの割合が増加したことを示しています。これはシカの個体数の増加により、春先のシカの自然死亡個体も増加し、それをクマが利用したことを示唆しています(以下の論文)。丹沢におけるワイルドライフレンジャーによるシカ捕獲は、春先以外にもクマがシカを利用する機会を与え、全体としてシカの利用量は増えるでしょう。ですが、雑食動物において肉食の利用には一定の制約がかかるために、OSO18のように肉食化した(肉食に特化した)という表現は誤っています。
Shinsuke Koike, Rumiko Nakashita, Kyoko Naganawa, Masaru Koyama, Atsushi Tamura, Changes in diet of a small, isolated bear population over time, Journal of Mammalogy, Volume 94, Issue 2, 16 April 2013, Pages 361–368, https://doi.org/10.1644/11-MAMM-A-403.1

Q12 講義の中でシカが増加すると不嗜好性の植物が繁茂し、単一の下層植生に置き換わるとの話がありました。土壌中などのシードバンクが残ってる前提かと思いますが、不嗜好植物の刈払いを行えば、他の種が復活する可能性もあり得るのでしょうか? あり得る場合、不嗜好性植物を防鹿柵で囲い、その中を刈払いすれば新たな下層植生に変わる可能性も十分あるのでしょうか。このような調査事例はあるのでしょうか?
A12 シカが増加すると嗜好植物を喰い尽くし、土壌中の嗜好植物のシードバンクも、発芽しては食われるのでなくなります。そのため、不嗜好植物に覆われるので、これを借り払っても、他所から風散布などで種子が供給されない限り、新たな下層植生には置き換わりません。

Q13 鳥獣保護管理法第38条の改正の方針が決定し、住居集合地域や夜間銃猟が可能になるのですが、市町村の立場としては文字面で読み取られるほど易々とは発砲できないものと思っています。2021年6月のような場面に遭遇したとしても、跳弾などのおそれがありなかなか撃てるチャンスは巡ってこないのではないかと思っているのですが、実際のところ、コンクリートやアスファルトに囲まれた環境下で発砲した際の跳弾の影響はどの程度あるのでしょうか?
A13 前段はその通りだと思います。後段は、銃や弾頭学の専門家ではないので、お答えできません。

Q14 被害が多様に広がる中、過疎化や高齢化、人口減少の社会において、実際の集落や地域、あるいは市町村の実際の対策はどのようにすすめるべきでしょうか?対策単位として集落単位なのか、地区単位なのか?市町村単位でしょうか? そのうえ広域協議会のような対応はどのように整合性をもたしていくのでしょうか?
A14 最終講義でお話したいと思います。

Q15 国の機関が環境省・農水省等と権限がまたがり主体的に行政として行う部署が新たに必要ではないでしょうか? 生態系に及ぼす影響は表面に出ている以上に深刻であり、野生動物の管理だけでなく自然生態系を考えた管理が必要ではないでしょうか?
A15 新たな部署をつくっても、既存の組織との関係をどうするかという問題があります。組織の在り方については最終講義で触れます。自然生態系を考えた管理も野生動物管理の一環としてする必要があります。講義で触れた、国立公園の生態系維持回復事業はシカ対策が中心です。

Q1 今回の講義テキストと直接関係する訳ではありませんが、鳥獣保護管理法の38条が改正される見込みと連日報道を騒がせています。この対応はクマ類の市街地出没対応に向けての対策の1つかと思います。ニホンジカの様々な問題についてもクマ類以上に問題が発生している状況と実感します。シカはクマのように直接的に死傷事故は発生させないかと思いますが、交通事故による人身被害や人獣共通感染症などクマ類よりも大きな社会課題であると思いますが、なぜ梶先生がご提案されている内容などについての方向性などで、法律の改正などが進まないのでしょうか? 鳥獣議連などもあり、政治的なバックアップもある状況かと思いますが、法律や仕組みを変えるというのはかなり難しいのでしょうか?
A16 昨年のクマ類の大量出没と人身被害は社会問題となったために、法律の一部改正にまでつながりました。講義でお話したシカの生態系被害などはクマ類の問題よりも別の面ではるかに深刻ですが、調査が一部地域でしか実施されておらず、全国規模の影響について、科学的なデータをもって示すことができていないことが課題だと考えています。

Q17 鳥獣法改正に関して先生が北海道新聞にコメントされていた、現場責任者を担える人材のいる自治体は極わずかということでした。たとえば、道内にはそのような自治体はあるでしょうか?
A17 斜里町、羅臼町には知床財団のスタッフがいます。そのほか、道内自治体で職員が職務としてクマの駆除を行っているのは、占冠村と岩見沢市、三笠市、空知管内沼田町の計4市町村と報道されています。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/988649/

Q18 野生動物からの病気の伝搬について危険性は理解できますが、人や家畜への伝搬の現実・実際は如何でしょうか? (マダニからライム病に罹りましたので・・・)
A18 厚生労働省のダニ媒介感染症のホームページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bun

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