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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第8回実施分)
2024/07/10
「ワイルドライフマネジメント」第8回実施 個体群管理から生態系管理へ ― ランドスケープの視点
アンケートのご質問への回答は、以下の通りです。※URLはリンクされていませんので、コピペしてブラウザに貼り付けてアクセスしてください。なおURL表示の下に資料名の記載されたものは、そのページにアクセスして、下にあるリンクを探してください。
Q1 植生を指標にして植生の回復段階を調べるという知床岬の例は、とても重要に感じました。一方で、知床岬以外でこのように植生の回復段階を評価している地域は多いのでしょうか。
A1 生態系への影響を評価する方法として,広葉樹二次林を対象とした下層植生衰退度(shrub-layer decline rank, SDR)が開発され、SDRを用いた「ニホンジカによる森林生態系被害の広域評価手法マニュアル」(藤木 2012)が作成され、関西4府県(兵庫県, 京都府, 滋賀県, 福井県)、大阪府、岐阜県のほか、多くの県で下層植生の調査が実施されるようになりました。
Q2 知床のシカ問題において、データや経験を蓄積し、科学技術や動力の発展があるのにもかかわらず、50年弱対策してきても未だ解決策が見いだせないのはなぜでしょう? 単純に先住民のように犬と共に知床半島に人が多く住み、狩猟をしていけば解決するのでしょうか?
A2 対策を開始したのは知床が世界自然遺産に登録され、シカ管理計画が始まった2007年以来の17年間です。短期的には低密度下が実現できても、長期的に低密度を維持する方法はまだ確立していません。昔と同じようなやり方は不可能のため、その代替となる方法を試行錯誤で模索しているところです。
Q3 的外れかもしれませんが、先住民の時は共生関係で鹿の繁殖が抑えられてきた。しかし、今は崩れている。当時から生えていた樹木が今も有るとすれば樹齢数百年で屋久島の大木のような木が知床に沢山有る事になります。知床の樹木の年齢はそこまで古くは見えません。枯れて新しい樹木で代替わりをしているでしょうから、昔の樹木の植生と今は違うのでは無いか?と想像してしまいます。オオカミが居たときの樹木の構成がそのまま今も残っている事は無く、変化して行くの中での鹿の増加減少と樹木の変化なので、何かモヤモヤしています。鹿の影響が無くても植生は変化するのでしょうから、知床の一部をオオカミを絶滅させた様に鹿を絶滅させた区域を作ったら植生はどう変化するのか?
A3 知床岬では個体数のピークを迎えた翌1998/99年冬までに、オヒョウ、イチイ、ミズナラの太い木の樹皮剥ぎが生じ、オヒョウはほぼ絶滅しました。年輪を調べたところ、過去300年間にはこのような樹皮剥ぎが生じていないことがわかっています。つまり、300年間では、一番、シカの影響が強い時代を迎えています。シカを排除した囲い区(100mX100m)が2か所設定されており、シカを排除した場合の植生変化が追跡されています。下層植生の回復はみられるものの、森林の樹冠がうっぺいして光条件が悪くなると、森林の更新に影響することがわかっています。
Q4 人間活動である森林伐採によってササ型植生と針葉樹林地が増加し、冬季の隠れ家と夏季の餌が莫大に増加したことが自然食生被害の激増につながったということを知り、人間との共生を考えるうえでは対策を考える必要があるが、原因が人間にあり、その人間の生活に合わせるように管理するということになんとなく矛盾を感じてしまう。
A4 人間と自然環境(生息地)と野生動物の3者のより良い関係を求めるのが、ワイルドライフマネジメントであると考えています。
Q5 森林伐採によってササ型植生が増えたとのことだったかと思いますが、その原因は樹木の伐採によって林床への光の供給が増えることとササが伐採作業などの攪乱に強いことが理由でしょうか?
A5 光条件が改善されることが主要因です。
Q6 知床の事例で、強く捕獲圧をかけることでシカの個体数抑制は効果が表れた面があるが、回復してきた植物どうしの競争により、希少種の回復には至っていないということだったかと思います。シカに捕獲圧をかけ続けるというのも、人材確保やコストの面から大変であろうし、植生の回復・維持も、とりもどしたい姿でというのはかなり難しそうに思えます。本来の(あってほしい姿の)自然を取り戻し、それを維持するにはどのような方法が考えられるでしょうか? 知床以外の他の地域でも応用可能な方法があるでしょうか?
A6 植生回復の目標をどのように設定するのかという本質的で、重要な質問です。希少種の個体レベルの回復は一部でみられても、群落レベルの回復には相当の時間がかかります。まずは、植被を維持して裸地化による土壌流出による不可逆的な変化を防ぐ、種の絶滅を防ぐことは全国的に共通した目標です。植生が変わっても生態系機能を維持することも重要と思います。その方法としては、植生を回復させるためには、長期間にわたって低密度でシカを管理することが基本ですが、その具体的な方策は模索段階です。
Q7 捕獲に対して最初から銃による捕獲を導入していたが、一方大がかりな罠での捕獲も実行したとのことでした、捕獲で銃猟の場合縄張り等の問題は発生しなかったでしょうか? また,銃猟者と罠の設置者の問題はなかったでしょうか?
A7 捕獲は、環境省、林野庁の委託事業による個体数調整、市町村の駆除、一般狩猟と役割分担が明確なため、これらの事業従事者間での軋轢は生じていません。
Q8 書籍では、兵庫県と広島県で二ホンシカが北方と南方が分かれていると書いていますが、その要因は何ですか? 予想や推測でもいいのでお願いします。不思議に思うので。
A8 第3回の講義で「ニホンジカのルーツ:多重渡来仮説とリフュージア仮説」を紹介しています。多重渡来仮説:2つの異なるグループが異なったルートを通って、異なった時期に日本へ定着した。北グループには2つの代替のルートが考えられている。リフュージア仮説は、祖先(灰色)が移入したあとで、最終氷期極大期に2つの系統が異なったリフュージアに限定され、その後分布が拡大した。Tamate (2009)The Wild Mammal of Japan 松香堂書店 (中西印刷)
Q9 知床遺産地域での個体数調整の手法は、未達成の場合はペナルティ課せられますか?
A9 質問の意図がわからないですが、おそらく、目標が達成しない場合にペナルティがあるかという意味かと思います。知床世界遺産地域のシカ管理は順応的管理として進めており、目標がそもそも仮説なため、仮説が間違っていても修正すればよいだけのことです。もちろんペナルティはありません。
Q10 知床で再度シカが増加しているということでしたが、捕獲数がまだ足らないということになるのでしょうか? それとも捕獲以外の取り組みが必要になってくるのでしょうか?
A10 知床全体で増加しているわけではありません。知床岬では周辺部からの流入があるために増加しています。ヒグマの存在もあって、ヒグマの危険を回避しながら実施する効果的な捕獲方法を模索段階です。
Q11 知床でシカの駆除が始まり、植生の回復が見られたとおっしゃっていましたが、全て自然の推移に任せた結果なのでしょうか? それとも植樹や草刈り、野焼きなど人為的に手を加えたのでしょうか?
A11 駆除以外の人為的な方法は用いていません。
Q12 積雪がニホンジカの移動や生息分布拡大に大きな影響がある、との話でしたが本州などでも同じなのでしょうか? 積雪の影響でニホンジカが分布をしない、ではなく分布の進行速度が遅いという認識で良いのでしょうか? また、北海道の南部や北部地域ではこれまで数が減少していた地域に再拡大をしている、という認識で良いのでしょうか?
A12 ご指摘のように、1970年代まで多雪地にシカが分布していなかったのは、積雪の影響により、分布拡大の進行が遅かったからです。多雪地でも針葉樹があれば越冬可能です。これもご指摘のように、北海道の南部や北部へは、過去の生息地への再分布です。
Q13 テキストp141にこの調査は、予算も期間も日本では前例がないほど大規模とあります。どのくらいの予算規模だったのか、原資はどこから出たのか教えてほしい。 講義の中で1980年代に渡島に鹿が導入されたとありました。なぜ、誰が導入したのでしょう。 ヒグマもそうだが、後から流入してくる対策は、その後功を奏しているのか
A13 予算規模については、今となってはわかりませんが、1000万円規模だと思います。北海道庁の事業です。渡島半島には、過去にシカが生息していたので、狩猟資源として導入したいという地域の組長さん(市町村長)や政治力の有る方たちの要望があったからです。当時の北海道庁の担当者は、導入後のシカによる被害を懸念して反対していましたが、阻止できませんでした。その結果が、道南でのシカの分布拡大と増加です。
Q14 1980年と81年に日高からシカを入れたことからシカの分布が拡大したとあるが、「入れた」とは人為的に入れたということでしょうか? また、なぜ入れたのでしょうか?
A14 A13と同じです。
Q15① 四国のいる種もホンシュウジカとのことですが、今後四国でのみ繁殖が行われ、本州や九州等と遺伝子交雑がなかった場合は新たに亜種として認められる可能性はあるのでしょうか?
A15① 遺伝的な変化が生じないで、亜種とはならないでしょう。
Q15② 移動個体は毎年夏・冬に同じ場所へ移動し、そこで過ごすとのことでしたが、移動場所(農耕地や白糠丘陵を目指す)や移動方向(北移動・東移動)又は定住するという選択は鹿の本能や遺伝情報インプットされたものに従うものなのでしょうか? それとも、最初に親元から離れた際に、各個体が自身で考えて、ササ等が豊富な良い越冬地等を探しながら移動したり、夏に餌が豊富だからここに定住しようと決めるのでしょうか? また、冬季にいつもの越冬地に多くの鹿が集めり餌が少なかったり、多雪だったりした場合は鹿は自分で他の場所への移動を決めたりするのでしょうか?
A15② 白糠での季節移動の3タイプのグループには、mtDNAのハプロタイプは同じで、区分できませんでした。積雪深さなどの環境勾配にしたがった季節移動が観察されます。出生地から分散して新しい場所に定着したメスは出産場所(夏の生息地)に定住し、毎年同じ場所を利用します。一方、冬期には、積雪の多少に応じて越冬場所を変えます。
Q15③ 原植生では落葉広葉樹林であったのが、現存植生では農耕地に変わったと話がありました。また、現在二ホンジカが冬の間は中標高(200-400m)の生息地を選択すると話がありました。原植生の時代でも、落葉広葉樹林よりも、傘型で雪よけになる針葉樹林のほうが越冬地としては好まれていたのでしょうか?
A15③ 開拓以前の北海道では、積雪の少ない年には落葉広葉樹の林でも越冬が可能でしたが、積雪の多い年には針葉樹林に覆われた越冬地を選択したものと推測されます。
Q15④ ハプロタイプ(D-loop領域)は6つに分かれており、そのうち主要な3つが阿寒・大雪・日高であり、それを基に管理ユニットを3区分、現在では4区分に分割したと話されていました。主要なタイプ以外の3つのハプロタイプをもつエゾジカは阿寒・大雪・日高の個体と遺伝子交雑して、現在はほとんどいなくなってしまったのでしょうか? また、これら主要なタイプ以外の3つのハプロタイプを持つエゾジカを特別保護する必要等はなかったのでしょうか?
A15④ 管理ユニットは、1990年代は東部、西部、南部の3区分、2022年からは、西部を北部地域、中部地域にわけ、東部と南部はそのままで4区分としています。このうち、東部は阿寒個体群、北部地域は大雪個体群、中部地域は日高個体群に該当します。分布拡大にともなう遺伝子流動による変化ですので、特別保護する必要はありません。
Q15⑤ 「知床世界自然遺産地域におけるエゾシカ管理の論点」のスライドで『自然推移にゆだねるか、積極的に人為管理を行うべきか』を決めるに当たって「1.樹皮上げされた木の年輪調査」ともう1つ解析を行ったとおっしゃっていたのですが、よく聞き取ることができなかったので再度教えていただけると幸いです。
A15⑤ 樹皮剥ぎされた樹木の年輪解析のほか、花粉分析です。
Q15⑥ 「ゾーニングによるシカの共同管理」のスライドで、シカ捕獲禁止区域の記載があったのですが、これが講義で説明の有った「自然の推移に委ね」た実験的な地域なのでしょうか?
A15⑥ 特にシカ捕獲禁止区域を自然の推移に委ねる試験地とはしていません。斜里のルサでは自然に委ねる試験地としてモニタリングを実施しています。
Q16 ボトムアップ型の知床方式とありましたが、過去にこのような形で管理や政策の決定が行われたことはないのでしょうか?
A16 知床方式について、松田裕之さんの以下の解説があります。
「地域コミュニティーや関係者の参画を通したボトムアップアプローチによる管理、科学委員会や個々の(具体的目的に沿った)ワーキンググループの設置を通して、科学的知識を遺産管理に効果的に応用している」ことが「他の世界自然遺産地域の管理のための素晴らしいモデル」として、知床方式は称讃されたのである(松田裕之 2009)。https://imidas.jp/jijikaitai/f-40-035-09-02-g116
知床より先に世界自然遺産に登録された屋久島や白神山地には科学委員会はありませんでしたが、知床での評価を得て、科学委員会が設置されるなど知床方式が広がりました。
Q17 シカの個体数増加の最大の要因は、人間による利用・狩猟の減少とこれまでの講義で解説されましたが、今回の講義ではでは人間による土地利用・ランドスケープの変化がシカの個体数や植生被害の増加を促進させてきた面もあるとわかりました。今後も人間社会の変化や人間による土地利用の変化、例えば人口減少、放棄耕作地や放棄造林地の増加、農業や酪農の大規模化、自然再生やOECM自然共生サイトなど、が起こっていくかと思いますが、こうした人間社会やランドスケープの変化が、シカやクマの個体数や生態にどのような影響を与えていくとお考えでしょうか?
A17 シカやクマのみならず多くの野生動物の生息数の増加とその結果の分布拡大を招き、人を恐れなくなり、都市型動物(アーバンワイルドライフ)が増加することが想定されます。
Q18 糞中窒素含有量が多い=タンパク質が多いという認識で良いでしょうか?また、それはなぜでしょうか?「遺伝的多様性が高い=好ましい状況である」というイメージでしたが、管理ユニットの区分がまとまってしまうことは好ましくない傾向なのでしょうか? 的外れでしたらすみません
A18 糞の粗窒素含有率は食物のタンパク質含有率の指標とされています。
個体群の分布拡大によって高密度地域から低密度地域へと遺伝子流動が生じて遺伝構造が変化したと推定されました。その実態にあうように管理ユニット区分を行ったわけで、価値判断はありません。
Q19 移動範囲の広い生物に関しては、DNAレベルの交雑は特に問題はないのでしょうか?
A19 質問の意味が取りにくいですが、エゾシカの地域個体群間の「交配」による遺伝子流動は何も問題ではありません。
Q20 素朴な疑問だが、世界自然遺産に指定されている生態系に対して人間が手を加えているという事実を登録基準など世界遺産的ルールと照らし合わせた時に問題はないのか?と気になった。
A20 知床世界自然遺産地域は特異な生態系と生物多様性が登録基準を満たしていると評価されています。しかし、高密度のシカは、希少植物の絶滅などによって生物多様性を損なうことが危惧されたために、人為的な介入を行っているのです。ただし、IUCNからは以下の課題が提示されています。
・自然植生に対するエゾシカによる食害が、許容可能なものか許容できないものかの限界点を明らかにすることが出来るような明確な指標を開発すべき→植生指標の開発
・個体数管理が遺産地域のエゾシカの個体群、生物多様性、生態系に及ぼす影響を注意深く観察→ モニタリングの継続
Q21 講義の中で、道南(函館方面)へエゾシカをある時期に移入したとのお話がありましたが、その目的は何だったのでしょうか?
A21 A13と同じです。
Q22 シカの管理ユニットの設定に遺伝子による分類を用いているのは、遺伝子の多様性を考慮しているのでしょうか? それとも遺伝子のグループと行動様式が関係あると考えられているのでしょうか? それとも全く別の理由でしょうか?
A22 A3と同じです。
Q23 最近はよく「協働型」や「統合型」といった取り組みが聞かれますが、その一方でそれぞれの考えや意見の相違から、却って人間関係が拗れてしまい、うまく物事が進まないようなこともあると感じます。テキストには「補完性原則」という言葉がありましたが、「協働」を上手に行なうコツなどはありますでしょうか?
A23 講義でふれます。
Q24 生活知や伝統的技術は、「科学的」な技術と相入れない点もあるのではないかと感じたが、実際に現場で仕事をされるなかで、そうした衝突のようなものはありましたでしょうか? また、あればそれに対してどのように対応されたのか伺いたいです。
A25 獣害を防ぐ技術を正しく用いれば、確実に被害は軽減できますが、実行されてはいません。まずは、捕獲ありきで捕獲数を増やすことが目的となっており、獣害を減らすことができていません。兵庫県ではモデル集落を設置して、柵を設置して動物を寄せない、侵入する害獣を駆除する、個体数を減らすなどの手順で被害の劇的な低減に成功しています。このような集落を増やすことに努めています。
Q25 鹿の個体数を抑制するには、やはり現状人間による狩猟が最も取られている対応だと思いますが、それらの狩猟により他の生物に影響が出たりはするのですか? 未だ散弾銃による鉛中毒を引き起こす動物(オジロワシなど)がいるとお聞きしましたが、それは鹿と何かしら関係がありますか?
A25 狩猟は趣味の捕獲ですが、個体数を抑制するのは公共目的の駆除です。シカの高密度化による他の生物や生態系への影響が深刻です。大量に捕獲され、残滓が放置されることによって、それを食べる動物が利益を受けていますが、それらの動物同士の関係はわかっていません。
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2022/20221006_01.html
鉛中毒については第5回の講義で説明していますが、北海道では2004年度にはヒグマも含めた大型獣捕獲用の全ての鉛弾を規制しています。その後もわずかですが鉛中毒が絶えないのは、鉛弾を使用したシカ猟が実施されているからだと推測されます。
Q26 北海道の研究員から、大学教授というキャリアを得て仕事内容も大幅に変わったと推察されます。各種、大学教授になられて良かったこと、大変だったことなどお話をもう少し深く聞きたいと思いました。
A26 講義の最終段階でお話します。
Q27 講義の主題となる事柄ではありませんが、質問させてください。野生動物管理の人材を育成したいと書かれていましたが、その育成カリキュラムは第6回で言及されていたアメリカの大学のカリキュラムに近いものでしょうか?
A27 第12回の講義でふれます。
チャットでの質問と回答
Q1.越冬地について、どのような条件を満たしていればシカの越冬地として適しますか?なぜ針葉樹林帯で越冬するのでしょうか?
A1 積雪が少なく、餌の総合的な価値が高いミヤコザサあるいはクマイザサが生育している地域です。針葉樹は傘型の樹形をしているため、樹冠の下は雪が少ないためシカの越冬に適しています。
Q2 聞き逃したかもしれないですが、積雪量と笹の分布と鹿の分布の3点の因果関係をどのように考えれば良いのでしょうか?積雪が多い→ササが少ない→シカが少ないという認識でよろしいでしょうか?
A2 積雪が少ないところでは、餌の価値が高いミヤコザサあるいはクマイザサが生育しているのでシカが多く、積雪が多いところでは、餌の価値が低いチシマザサが生育し、シカが少ないです。
Q3 mtDNA情報が管理ユニットの設定において重要ということがあまり分からなかったのですが、それぞれの区分にどのくらいの割合で生息しているかを把握することができる、という理解で大丈夫でしょうか?
A3 mtDNAのハプロタイプをもちいて、ある地域に生息する主要な個体群を区分することができるので、管理ユニット設定に重要となります。
Q4 シカの調整理由の「先住民が(犬と共に)暮らしていたから」という理由をもう少し具体的にお願いします。狩猟による調整なのか、森林の植生なのか、いかがでしょう
A4 先住民が(犬と共に)暮らすことによって、狩猟による捕獲のほか、恐怖を与えてシカを寄せ付けなかったため、植生が守られてきたとの仮説です。
Q5 全国のGPS調査結果により北海道と北海道以外の季節移動の違いはありましたか?
A5 積雪地帯では、積雪が乏しい地域に比較して、季節移動個体が多く、移動距離が長いという傾向が見られました。
Q6 全道の管理ユニットを3から4に増やした結果、管理にどのような効果があったか、もう一度教えてください。
A6 西部地域のmtDNAが北部と南部で異なっており、違う個体群が存在することがわかり、北部地域と中部地域に分割しました。その結果、個体数推定および捕獲の効果の評価が、個体群ごとに適切に行うことが可能となりました。ちなみに南部と東部は変更していません。
Q7 個体群を遺伝的に区分して管理ユニットを設定するとのことですが、時間が経つにつれて遺伝的な交流が増えて遺伝的な区分も増えるような気がします。そうすると管理ユニットはどんどん増えてしまうように思えますが、それに関して基準というのはあるのでしょうか?
A7 mtDNAのハプロタイプに基づく生物学的な管理ユニットと、行政が管理を実行する場合の実行可能な管理ユニットの整合性を採ることになると思います。
以 上