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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第6回実施分)

2024/07/10

「ワイルドライフマネジメント」第6回実施 世界の野生動物管理の歴史 ― 自然を管理するということ

アンケートのご質問への回答は、以下の通りです。

Q1 ヨーロッパにおける狩猟管理モデルのLecocqやシステムについて詳しく学べるものがありましたら、教えてください。
A1 『野生動物の管理システム  クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』(梶・小池編著 講談社)に解説があります。現在は電子書籍のみです。

Q2 なぜ雌シカは駆除の対象とされないのか。宗教的理由からですか?
A1 欧米でも雌シカは狩猟や駆除の対象とされますが、狩猟者は角の大きい雄を捕獲するトロフィーハンティングの文化があるため、メスの捕獲は敬遠されます。

Q3 講義中に少し紹介があった、チベット鉄道によるチベットアンテロープの群移動への影響はあったのでしょうか? あった場合はどのような影響があったのか教えていただきたいです。
A3 チベットアンテロープの季節移動は河川沿いであり、チベット鉄道は高架となっているため、移動を妨げることはありませんでした。

Q4 温暖化の影響もあり、有蹄類が増加→植生破壊→さらなる温暖化助長。逆にいえば、有蹄類の適正管理は、有効な温暖化対策ということになりますか?
A4 高密度となった有蹄類は、森林再生や森林の維持の阻害になるため、気候変動適応戦略やカーボンニュートラルの取り組みの妨げになります。その意味で、有蹄類管理は有効な温暖化対策と言えます。

Q5 欧米諸国や日本など所謂先進国での野生動物と人間社会の軋轢について取りあげられていましたが、例えば東南アジアや南米の熱帯雨林などでも野生動物と人間社会の軋轢は問題として認識されることはあるのでしょうか? それとも、これらの地域では密猟や森林伐採など、自然保護と人間活動の衝突が問題として認識され、野生動物の「管理」という視点ではまだ問題として認識されていないのでしょうか?
A5  国際的には希少野生動物種ですが、中国国内では保護政策により地域で増え過ぎたせいで、ヒトとの軋轢をもたらす事故が頻発(『ワイルドライフマネジメント』第6章)したことと、ターキンやアジアゾウによる人身事故を紹介しています。タイやアフリカでもゾウが保護区で増加し、保護区から分散した象が近隣の農村を襲うことがテレビでも放映されています。これら以外にもアジアでは獣害が少しずつ問題となっていますが、南米の熱帯雨林ではいまだに乱獲からの保護の問題が大きいです。

Q6 シカ類やイノシシなどの有蹄類管理の状況について理解をすることが出来たが、中型哺乳類(ウサギ?やキツネ?)や鳥類(カモなど?)なども、同様の形で資源として管理をしている、という認識で良いのでしょうか? また、クマ類やオオカミなど捕食者で数の少ない個体については、どのような管理方針を国々でしているのでしょうか?
A6 中型哺乳類や鳥類については有蹄類とは別の仕組みです。北米では、クマ類については、少ない捕獲割当、オオカミについては、生息数が多く安定している、アラスカとカナダでは狩猟獣ですが、北米の他の州やEUでは保護獣として狩猟が禁止されています。

Q7 ある種の保護、個体数を増やすことは捕獲を規制することで比較的容易に出来たと考えますが、本来誰の物とも言え無い動物を90%も減らすことは可能でしょうか? また、適切な数を維持するには何を観察すれば良いと思われますか?
A7 奄美のマングースの駆除のように、徹底的な個体数管理を行えば可能かもしれませんが、技術的には困難だと思います。個体数の増加を示す兆候を早めに把握するために、シカが植生に与える影響を見ていくことが重要です(第8章)。

Q8 鳥獣管理における、動物の福祉の考え方がアジア圏と欧米でどう違っているのか? またそれがどの様な要因(文化的なものか、制度的なものかなど)で生じているのか? さらに知りたいと思いました。
A8 欧米のユダヤ教・キリスト教による神に替わってヒトが野生動物を管理あるいは保護するという考えがあるのに対し、アジア圏では野生動物もヒトもフラットな関係で、野生動物は食べ物であるという意識があるように思います。しかし、これらの背景がどのよう動物福祉の考え方に反映しているのかについては、わかりません。研究も乏しいと思います。

Q9 日本が、野生生物を資産として捕獲を経済循環の中で利益を生むような仕組みにできないのはなぜですか? 例えば、ジビエの食肉加工が大変だと聞くことがありますが、ヨーロッパはそういった日本の課題はどのようにクリアしているのでしょうか?
A9 ヨーロッパでは狩猟が社会経済と文化に組み込まれており、ジビエは自然資源として扱われていることが大きいと思います。一方、日本のジビエ利用は、国策として、駆除による捕獲促進の一環から取り組まれており、利用を前提とした捕獲にはなっていません。地域での地産地消の取り組みが始まると少しづつ利用が増えると期待しています。

Q10 日本がドイツフランスに次いでイノシシとシカの捕獲数が多いことには驚きました。また先生のお話しの中で、日本は税金で駆除する「害獣」であり、ドイツ、フランスは産業としての狩猟ということで、食文化などの違いも大きいのかと思いました。以前住んでいた場所では、同じくシカやイノシシの駆除を行うことが頻繁にあり、そのほとんどが廃棄されていましたが、猟師の方に聞くと、食肉として加工する場所がない(整っていない)ことが理由でもあるとのことでした。この辺りはドイツやフランスとの違いもあるのでしょうか?
A10 A9の回答と同様です。

Q11 日本における狩猟は、目的としてはどれに当たるのでしょうか?(食肉、トロフィーハンティング、等..)すでに触れられていたら申し訳ありません
A11  主には、①趣味としての楽しみ、②自然資源としての肉や皮の利用、③農林水産業被害の予防、④生物多様性の保全、などが目的とされています

Q12 ①野生動物の歴史で中世ー21世紀に「封建制度の崩壊により公園が破壊し、シカが野生化する」というのは愛玩目的や動物園で飼われていたシカが革命や時代の変化により、その飼われていた場所から逃走したという認識でよろしいですか?
A12① 狩猟目的で荘園の柵内で飼育されていたものが、逃走したと考えられています。

Q12② チベット及び中国では希少動物等の保護のために狩猟が全面禁止されたといわれていましたが、未だに漢方目的の利用等の需要が高く、密猟や他国からの動物の密輸出入があると聞きました。希少動物等の保護のために省庁の許可を得たうえでの狩猟やスポーツハンティングも禁止するような「全面狩猟禁止」という極端な政策は希少動物の増えすぎに加え、「密猟」や「他国からの密輸出入」という別の問題が生じると思うのですが、この点どうお考えでしょうか? また、本講義をお聞きして欧米加え、チベットや中国、その周辺国(モンゴル、中央アジア)における動物管理や動物保護、希少植生保護等に興味を持ったのですが、おすすめの書籍や論文等はありますでしょうか?
A12② 中国と台湾(先住民を除く)では狩猟全面禁止のため、A5の回答のような事例や農作持つ被害が生じています。アジアをカバーした野生動物管理の情報は不足していますが、以下の本が参考になります。
Arthur Müller and Koichi Kaji (editors) 2018. Wildlife Policy and Laws in East Asia the Boone and Crockett Clubs, North American Wildlife Policy and Law. Bruce D. Leopold, James L. Cummins, Winifred B. Kessler eds, 2018
https://www.boone-crockett.org/north-american-wildlife-policy-and-law

Harris, R. B. 2007. Wildlife Conservation in China: Preserving the Habitat of China's Wild West. M.E. Sharpe, New York.

Q12③ 欧米では動物の福祉の観点から、動物を苦しめる罠猟を実施していないとのことでしたが、食肉等を余すことなく使用するとはいい、動物(=資源)を狩猟対象として余暇でスポーツ感覚で殺傷することのほうが動物福祉に反すると考えています。下記④にもつながりますが、先生又は専門家の中ではこの点についてどのようにお考えになっているのでしょうか?
A12④ 動物福祉(アニマルウェルフェア)の観点は、狩猟を認めており、動物の権利(アニマルライツ)は外来種も含めて殺生を認めていません。欧米で狩猟におけるわな猟が禁止されたのは銃猟に比較して、不必要な苦痛を与えるためです。ですが、地形が複雑で植生が密な東アジアでは日本を含めわな猟は、伝統的な狩猟法です。「野生動物の狩猟、わな猟、漁獲に際しては、極度な苦痛と長引く不要な痛みを与えないようにしょう。」(地球憲章:地球サミット事務局長であったモーリス・ストロング氏の提案により、法的原則だけでなく、人間や社会の倫理的原則も盛り込んだ「地球市民の憲章」として2000年に制定された)

Q12⑤ 欧州における学者一般と日本の学者一般における「スポーツハンティングにおける動物管理」の考え方における共通点又は相違点はありますでしょうか?
A12⑤ 論文のレビューに基づくと、欧米、日本ともスポーツハンティングによるシカ・イノシシの個体数管理は成功していません。相違点としては、日本では狩猟以外の捕獲がほとんど(8割)を占めていることです。

Q12⑥ 第5回の質問の回答を拝見させていただいたところ、日本では欧米と比較して雄鹿の方が見た目や市場価値として、価値が高いというところに重きを置いていないと理解しました。しかしながら、日本では雄鹿を中心に狩猟がされており、個体数抑制のために雌鹿の狩猟を推奨しているとおっしゃっていました。日本の狩猟者の間で雄鹿が中心に狩猟がおこなわれているのは、トロフィーハンティングの側面より、雌鹿を積極的に狩猟すると明治期のように鹿が絶滅の危機に瀕するという狩猟者間の迷信の側面が強いのでしょうか?
A12⑥ 雌ジカが狩猟獣となってからは、捕獲数内訳は雌雄ほぼ等しくなっています。欧米のような捕獲の雄を選択することはない状況になっています。

Q13 今回の講義で、北米の事例で紹介されていたが生態系における人間の役割という観点で言えば、日本での事例や過去の暮らしに立ち帰る視点は現在あるのでしょうか?(例えば里山林の焼畑農業、薪炭林の周期的な活用など:私の住む地域は戦前まで15-20年周期で雑木林をエリアごとに順番に伐採していた。秋田の山奥の集落では33年周期で山林を伐採していたとのこと)
A13 第7回の講義で日本の狩猟の歴史をお話します。

Q14 聞き逃したかもしれないのですが海外でも狩猟者は減っているのでしょうか?
A14 欧米でも狩猟者は減少しています。

Q15 ヨーロッパにおけるイノシシの捕獲頭数は個体数増加の抑制に十分なのでしょうか? 不十分な場合、どの程度捕獲を増やす必要があるのでしょうか?
A15 狩猟による捕獲では個体数の抑制ができていません。繁殖基盤である成獣雌を選択的に捕獲する必要があります。ウリンボが1歳になると繁殖を開始するので、亜成獣の雌も捕獲する必要があります。しかし、雌を選択的に捕獲する手法が確立していません。これまでの研究によると、イノシシの繁殖率は偶蹄類の中で最も高いため、個体数増加率(λ<1)を抑えるためには、幼獣の狩猟率(幼獣の80%以上)や成雌の狩猟率を高める(Bieber and Ruf 2005, Keuling et al. 2013)か、中型雌の狩猟圧を14.6%高める(Gamelon et al. 2012)。また、間引き戦略として、幼獣の巻き狩り、成獣メスの単独狩猟を強化することで、イノシシの個体数を調整しやすくなる可能性がある(Keuling et al. 2013) これまでの研究から、イノシシの個体数の増加を抑制するためには、繁殖能力のあるメスに基づいた選択的捕獲が不可欠であることが示されている。
Bieber, C., and T. Ruf. 2005. Population dynamics in wild boar Sus scrofa: ecology, elasticity of growth rate and implications for the management of pulsed resource consumers. Journal of Applied Ecology 42:1203–1213.
Gamelon, M., J et al. 2012. Making use of harvest information to examine alternative management scenarios: a body weight‐structured model for wild boar. Journal of Applied Ecology 49:833–841.
Keuling et al. 2013. Mortality rates of wild boar Sus scrofa L. in central Europe. European Journal of Wildlife Research 59:805–814.

Q16 日本国内の場合、まだまだ制度も予算も不十分なうえ、問題への認識も全体的に低いと思うので政府や行政主導も民間主導もどちらも難しいのではないかと思いました。とはいえまずは制度設計が必要かと考えますが、国民が出来る働きかけや動きにはどのようなものがあるのでしょうか?(日本の管理体制はどのタイプかとの質問にはまだどれも違うと感じています)また野生動物管理学を大学でとの流れが国内でも始まっているとのことでしたが、その知識を生かした管理などを実行する受け皿(行政などでの専門職的なもの)は今後増えていく動きはあるのでしょうか?(既に需要はあると思いますが、実際に民間以外で活躍している例はそれほど多くないと思うので)
A16 第12~14回の講義でお話しします。

Q17 猟期や銃の取得について等、欧米と日本の制度的な違いについてもお教えいただけると幸いです。
A17 ヨーロッパの制度は、
Putman, R., Apollonio, M., & Andersen, R. (Eds.). (2011). Ungulate management in Europe: problems and practices. Cambridge University Press.
北米の制度(世界各地の事例も含む)は、
Bruce D. Leopold, James L. Cummins, Winifred B. Kessler (Eds)(2018) North American Wildlife Policy and Law. Boone and Crockett Clubs

Q18 日本の管理の方法はハイブリッド型だとおっしゃいましたが、行政、研究者、企業、NPO、地元住民等の中で、より良い管理をしていくためには、どこの力が一番必要になってくると思われますか?
A18 行政のトップダウンと地元住民のボトムアップ、その他ステークホルダーとの連携が必要です。講義の最終回あたりで日本モデルについて検討します。

Q19 狩猟のイメージを良いものに変えていくには、どうするのが良いと思われますか?
A19 狩猟の文化を若手が作ることだと思います。

Q20 テキストp.109の5行目に「日本ではまだ管理ユニットという概念が定着していない」というような表記がありますが、欧米ではそもそもどうやって定着したのでしょうか? 自分たちで管理システムを構築しようと四苦八苦している中で見出した概念なのでしょうか?
A20 持続的に狩猟資源を維持するためには、管理単位(管理ユニット)を決めて、生息数を推定し、捕獲捕獲目標を設定する必要があるからです。ヨーロッパにおける猟区、北米における管理単位が管理ユニットに相当します。日本でも、管理ユニットという用語は用いられていますが、さまざまな意味があり、管理システムのなかで明確な定義をもっていません。

次回(以降)の講義の質問
Q21 人口減少下における捕獲担い手の育成対策どうするのか?
A21 第13~14回の講義で「野生動物管理の日本モデル」でふれたいと思います。

Q22 知り合いに銃と狩猟免許を所持していた人が何名かいましたが、現在は全員辞めてしまったようです。銃を所持することや狩猟に参加することの金銭的・時間的な負担が大きかったようです。最近は若い人に狩猟を始める人が多い聞きますが、長く続くかどうかは難しそうだなと感じます。現在の日本の銃の所持や狩猟免許の制度についてのご意見を聞いてみたいです。
A22 第7回講義でふれます

Q23 明治時代にドイツの林学ともに狩猟学がセットで日本に来て大正時代には都道府県狩猟管理専門管が配置されたが、過剰な捕獲と森林伐採などで林学重視になって、狩猟が消滅しとテキストには書いているが、その背後には戦争と経済中心の影響がないのでしょうか?そのへんの見解も聞きたいです。
A23 講義でふれます

Q24 農民の8割近くは銃を所持していたというほど、狩猟が生活に根差していたようですが、それほど「一般的」だったことが、短期間のうちに今のように「特別なこと」に価値観が変わったことは農業の衰退以外に何か要因はあれば教えて下さい。
A24 講義でふれます

Q25 今回はヨーロッパや北米における野生動物管理について講義していただきましたが、アジア圏やアフリカ、南米といった他の地域における野生動物管理の歴史や現状についてもご教授いただけると嬉しいです。
A25 私の知識不足や情報不足もあり、講義の範囲を超えていますが、以下の本は北米を中心にしていますが、世界の野生動物管理制度を網羅しているので参考になります。
Bruce D. Leopold, James L. Cummins, Winifred B. Kessler (Eds)(2018) North American Wildlife Policy and Law. Boone and Crockett Clubs

Q26 日本で駆除されたシカはシカ肉として流通しているのでしょうか、それとも資源としての需要が少ないため、処分されてしまうのでしょうか。今までのそのあたりの事があまり触れられていなかったような気がするので、過去から現在にかけて駆除されたシカがどういう扱いをされてきたのか少し気になります。
A26 農林水産省HPには「国産ジビエ認証制度」、「捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況」など各種の情報がありますので、ご覧ください。

以上

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