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知床サスティナブルウィークに参加してきました④ 森づくりの道・開拓小屋コース後編

前回のブログの続編です。引き続き、サスティナブルウィーク期間中の開拓小屋コースの取り組みを、参加したガイドツアーの流れに沿ってご紹介します(前回の記事はこちら)。

開拓小屋コースを奥まで進んでいくと共同放牧地跡に辿りつきます。これまで森林の中を歩いてきたのとは一転して視界が開け、正面には知床連山がそびえていました。開拓者たちも知床連山を臨みながら放牧作業に従事していたのでしょう。セルフガイドには畑に適さない土地は放牧地として利用されていたとあり、これにはこの土地の表土の薄さが関係していたようです。コースを注意深く歩いていると確かに礫がところどころ顔を出しているのに気づきます。

露出した礫。

コースの再奥地点に当たる小高い丘は知床連山を一望できる非常に眺めの良い場所です。今回ここには彫刻家の加々見太地氏による作品「しれとこ・森のポイエーシス 森の夕」が展示されており、2体(?)の人型の彫刻が知床連山や森林再生の現場を背景に並び立っていました。作品の素材には100平方メートル運動の森づくりの過程で生まれたアカエゾマツの間伐材が使用されているそうです。この作品も100平方メートル運動の取り組みからなるものだそうで、制作・展示においても運動の理念が反映されていることが作品の説明板から読み取れます。説明板には「植林木の生長によって余剰の樹木が生じても、運動地系外への人為的搬出はおこなわない」という運動の「不変の原則」が紹介されており、作品の制作も一貫して運動地内で行われたこと、作品は常設展示とされ、森へと還元されていく過程までもが展示されること、が記されていました。

実はツアーに参加する一週間前にもこの作品を見に来ていたのですが、その際に幸運にも制作者の加々見さんにお会いすることができました。作品の制作は一度下見のために数日間滞在したのちに10日間以上かけて行ったそうです。作品については自分の心の叫びを表現したものではない、とおっしゃっていたのが印象的でした(作品の意味が読み手に開かれているということだと私は解釈しました)。

加々見太地氏の作品。それぞれの像の中心には空間が確保されており、周囲の空間との浸透性を感じます。

向かって右側の像。一見人間の形をしているのですが、えも言われぬ印象を見る者に抱かせます。

向かって左側の像。右側の像が荒々しく彫られているのとは対照的に、こちらは全体的に丸みを帯びています。

しばらくアートを鑑賞した後は開拓小屋方面へと向かいました。開拓小屋へはこれまでと違って二次林の中を突っ切って行きます。多様な景観が運動地内に存在しているのにあらためて気づかされます。途中には伐採された切り株も何本か残っていました。

コース内に残る切り株。イチイだそうです。

開拓小屋はもともと開拓者の馬小屋として使用されていたものです。その後1999年に改修され、開拓家屋と同様開拓の歴史を伝える遺産として残されるとともに、森づくりの作業やイベントの際に活用されているそうです。畑谷さんによれば知床愛護少年団の子どもたちがキャンプの際にここで寝泊まりすることもあるとのことでした。こちらについても今回ツアーということで内部を見せてもらうことができました。

開拓小屋の一階。薪ストーブとテーブルが置かれ、部屋の隅には資材や薪が積まれていました。

サスティナブルウィーク期間中には開拓小屋はブックカフェとして活用する試みも行われました。10月3日には3時間限定で「森のブックカフェby流氷文庫シリエトク」がオープンしています。こちらは静寂の森の中で読書とコーヒーを楽しむというコンセプトで行われ、開拓小屋の前に本棚とコーヒーを飲みながらゆっくりできる空間が展開していたようです。当日私が(岩尾別ふ化場ツアーに参加した後に)到着した時には天気が怪しくなっていたため屋内に移動していましたが、お客さんが来て古本を購入したり、コーヒーを片手に話を楽しんでいました。開拓小屋はコースの入り口から歩いて30分ほどかかるため決して立ち寄りやすい場所ではありませんが、それでも訪問するお客さんは少なくなかったそうです。本棚には動物や自然をテーマとした本が目につき、資料として貴重そうな古い雑誌等個人的に関心を引くものもありました。

ガイドツアーは2時間半に及び、普段は見ることができない施設の内部を見せてもらったり、コースについて詳しい解説を聞くことができたりと充実した内容でした。またこのツアーも含めた森づくりの道・開拓小屋コースにおける新たな取り組みも楽しむことができました。今回の訪問であらためて運動地内には様々な時代の様々な人々による自然への働きかけ−−開拓者たちによる森への介入に始まり、100平方メートル運動による森林再生の試行錯誤の歴史、最も新しいものとしてはアートまで−−が積み重なっているのを感じました。こうした働きかけの重層性をフィールドから学び、知床の歴史の厚みを感じることができるのがこのコースの魅力であると思います。もちろんそれらに加え、エゾシカなどの野生動物との遭遇や動物たちが残した痕跡の観察も楽しむことができました。ガイドツアーはサスティナブルウィーク限定開催でしたが、コース自体は冬期も開いているようです。知床にお越しの際は是非訪問してみてはいかがでしょうか。

 

(事務局・船木大資)

 

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