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知床サスティナブルウィークに参加してきました③  森づくりの道・開拓小屋コース前編

気がつけば今年もあと2週間ほどとなりました。参加してからどんどん時間が経ってしまっていますが、引き続きサスティナブルウィークの報告です。今回は、森づくりの道・開拓小屋コースで実施されたいくつかの取り組みについてご紹介したいと思います。10月3日には①森のブックカフェと②「しれとこ・森のポイエーシス」を見て、翌週の10月9日には③「森づくりの道トレッキングツアー」に参加してきました。日付が前後しますが、ツアーの模様をお伝えしつつ、コース内の各ポイントで行われていたブックカフェとアートにも触れたいと思います。

「森づくりの道・開拓小屋コース」は知床自然センターの道路を挟んで向かいに位置するトレッキングコースです。知床100平方メートル運動地をめぐるコースであり、森林再生の取り組みが行われているほか、かつての農業開拓の痕跡が残っている場所でもあります。こうした開拓の歴史と森林再生の取り組みの現場を歩いてほしいという思いから2017年に設置されています。

「森づくりの道トレッキングツアー」には竹川と船木の設立財団職員2名で参加しました。このツアーも岩尾別ふ化場ツアー(前記事参照)と同様、今回のサスティナブルウィーク限定で実施されたものであるとのことでした。この日の参加者は私たち2人のみ。シンラ(知床自然ガイドツアー株式会社)の畑谷雅樹さんがガイドしてくださいました。

開拓小屋コースの入り口で、このコースの特徴(原生の自然より歴史を感じるコースであること)やヒグマの目撃情報等について畑谷さんから説明を受け、ツアースタートです。

入り口は知床自然センターの正面にあります。写っているのはガイドの畑谷さん

開拓小屋コースは往復5km、所要時間2時間30分と比較的長いコースです。かつては開拓者の生活に使用されていた道がそのままコースになっています。今回は畑谷さんにガイドしていただきましたが、各ポイントにセルフガイドが設けられているので、そちらからもコースの詳細を知ることができます。コース内は陽の光が入ってきてかなり明るい印象です。赤く色づいたヤマブドウが目に留まります。

スタートして10分ほど歩いていると、道のど真ん中に座り込んでいる成獣のオスジカに遭遇しました。しばらく離れて観察していましたが、全く移動する気配がありません。畑谷さんの説明によると、繁殖期にはこういったふてぶてしい態度をとるのだそうです。仕方がないので少しずつ近づいていくと、立ち上がってこちらの様子をうかがうそぶりは見せつつも、今度はその場で草を食みはじめました。発達したツノ、太い首、黒々とした肌を持つ、非常に立派な個体でした。

コースの両脇には植林によって形成された森林が広がっています。ひとくちに植林と言っても、開拓者が植林したカラマツからなる防風林もあれば、1980年代に100平方メートル運動の一環で植林されたアカエゾマツ林もあります。森林再生の取り組みも時代を経るにつれて改善されているため、現在では1980年代の手法は採用されていないそうです。このコースでは幌別地区に堆積した様々な時代の人間の働きかけを垣間見ることができます。

整然と並ぶアカエゾマツ。間にはササが生い茂っています

かつての取り組みとともに、新たな取り組みも見ることができます。例えば(順番が前後しますが)放牧地跡方面と開拓小屋方面との分岐点では今年からササ地を森林化する取り組みが始まっています。こちらにはササの刈り払いが行われたシカ対策の樹皮保護ネットを巻きつけた広葉樹の苗木が植えられていました。この先も何度か訪問すれば、現状から森林へと移り変わっていく様子を追っていくことができるでしょう。

2021年10月時点ではこんな感じです

コースを横切る知床横断道路を渡った先には、かつての農業開拓の時代に使用されていた開拓家屋が保存されています。家屋の周囲には自転車や風呂釜が朽ちゆくままに遺されており、軒下には空のビール瓶が積まれていました。家屋の内部は普段一般に公開されていないそうなのですが、今回のツアーでは特別に見学させてもらうことができました。障子や畳は張り替えられるなど内部は綺麗に改修されており、使用されていた頃の生活空間が再現されていました。眼を惹きつける薪ストーブや立派な五右衛門風呂に加え、台所に並べられたビン・缶や壁に掛けられた昭和天皇の写真、玄関に片付けられた鳥かご、小さな子ども用の靴など様々なモノが当時の生活のディテールを感じさせます。

知床財団の発行している『知床あんない手帖』によれば、この家屋が建てられたのは1954年であり、また1966年に開拓政策が終了しこの地から移転した後も家主はこの家屋に通っていたそうです。幌別地区に初めて開拓者が入植したのは1914(大正3)年ですから、この家屋は50年以上にも及ぶ岩尾別・幌別地区の農業開拓史の中では比較的新しい時代のものであると言えそうです。いずれにせよ開拓者の生活の一端に触れることができる貴重な遺産だと思います。

長くなってしまいましたので次回に続きます。年内にもう一度更新できればと思います。

 

参考文献

・知床財団, 2021,『知床あんない手帖vol.1〜ホロベツ〜』.

・斜里町史編纂委員会, 1955,『斜里町史』.

・知床自然センターホームページ

https://center.shiretoko.or.jp/guide/mori/haruaki/

・しれとこ100平方メートル運動の森・トラストホームページ

http://100m2.shiretoko.or.jp/news/462.html

・知床サスティナブルウィークホームページ

https://sustainablefes.shiretoko.or.jp

 

(事務局・船木大資)

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