知床サスティナブルウィークに参加してきました② 「岩尾別ふ化場バスツアー」編
だいぶ期間が空いてしまいましたが、今回のブログも引き続き知床サスティナブルウィークの報告です。10月3日(日)に「岩尾別ふ化場バスツアー」に参加しましたのでその模様をお伝えします。このふ化場ツアーは実施前から高い関心が寄せられていたようで、1週間前にはすでに満席となっていました。昨年実施された時にも好評を博していたと聞いており、期待に胸を膨らませ参加しました。
集合・受付場所はカムイワッカ湯の滝モニターツアーと同様知床自然センターでした。注意事項と同行するスタッフの紹介を受け、今回のツアーのポイントを巡るバスに乗車し出発。今回のツアーはオータムバスデイズの一環で実施されており、一般車を入れない代わりにこのようなツアーを実施しているということでした。ツアー実施の背景を頭に入れつつ、まず最初のポイントである岩尾別ふ化場へと向かいました。
岩尾別地区はヒグマが出没しやすい場所であるとのことでしたが、バスがふ化場の看板を越えて敷地内に侵入すると、早速右手を流れる岩尾別川にヒグマの姿を見つけることができました。ヒグマは遡上してきたサケをねらって姿を現したようで、川の中を活発に動き回っていました。バスは一時停車し、しばしの間ヒグマの様子を観察することができました。車内からでもヒグマの生き生きとした姿が感じられました。
ヒグマの観察に一旦区切りをつけ、バスはふ化場の中を進んでいきます。敷地の奥まで進んだところで降車し、ふ化場内の見学が始まりました。敷地の境界には高さ2mほどの柵が設置されていましたが、これはサケの窃盗を防ぐためのものだということでした(「密漁」ではなく「窃盗」にあたるそうです)。今回のツアーには斜里町役場水産課の森課長が同行してくださり、逐一詳しい解説を聞くことができました。
ツアーでは2つの生簀を見学することができました。岩尾別川に遡上してきたサケ科の魚類はこの生簀で管理・選別されているそうで、まず一つ目の生簀に集められたのち、種を選別されて二つ目の生簀に移されるそうです。サケの遡上はふ化事業のためここで止めているものの、いくらかは生態系に配慮し上流へあげてもいるとのことでした。生簀では上流へと登ろうとするサケが端の方で飛び跳ねており、ダイナミックなサケの動きと彼らが飛ばす飛沫に参加者から歓声が上がっていました。
遡上してきたサケのメスからは卵が採取され、その卵にオスの精子がかけられます。これがサケの人工授精であり、こうした工程は生簀の横の建屋で行っているとのことでした。人工受精の作業については写真による解説で学びました。
以上の人工授精卵はさらに別の施設に移されて管理されます。施設内は厳格に管理されているということで、中に病原菌を持ち込まないよう事前に配布されたブーツカバーを着用して見学させてもらいました。ここでの受精卵や孵化した稚魚の管理には最新の技術が用いられているそうです。この管理手法を実際に使用されている孵化槽を前に解説をしてもらうことができました。
このようにして岩尾別川に遡上してきたサケの選別、人工授精の作業、受精卵と孵化した稚魚の管理という孵化事業の一連の流れを学習することができました。今度はふ化場を離れ、岩尾別川の上流へと遡り岩尾別温泉へつながる道路脇からサケの産卵の様子を見学しました。貸してもらった偏光板を使って観察を続けていると、メスが尾びれを使って卵を産める様子などを見ることができ、またオスのパトロール行動やメスをめぐる争いなどサケの生態に関する説明も聞くことができました。
さらに岩尾別川をさかのぼり、林野庁が設置した治山ダムを見学しながら、斜里町の知床100㎡運動における生態系復元の取り組みを伺いました。100㎡運動では現在サクラマスの生息数の回復に取り組んでいますが、こうした取り組みが実りはじめており、以前は川全体で数匹しか確認できなかったのが、今年はダムより下の箇所だけでも20匹確認できているそうです。こうした取り組みの進展を受け、サクラマスが遡上できるようなダム改良の要請を林野庁に対して行うとともに、さらに上流部にある斜里町管轄のダムの改善を先駆けて実施したとのことで、この成果も見せてもらうことができました。
町が改善したというダムの端には仮設の魚道(といっても20年くらいは保たせるようです)が設置されていました。構造は木材で作られており、その上に土嚢が積まれ中央に水が流れるようになっていました。ここで使われた木材は100㎡運動地内で生産された間伐材だそうです。設計は道内のコンサルタントに委託し、2日間かけて設置作業を行ったそうで、比較的低コストで改良することができたとのことでした。
改善されたダムの見学を持ってツアーは終了となりました。今回のツアーは「岩尾別ふ化場バスツアー」と銘打っていましたが、ふ化事業だけでなく、サケを狙うヒグマの様子や自然下でのサケの生態を観察することができ、また生態系復元の取り組みも学ぶことができました。またあまり触れられませんでしたが、岩尾別地区の歴史等も伺うことができました。森課長は最後に、国立公園の中でのふ化事業に疑問を持つ人もいるかもしれないが、自然に配慮しながら実施していることや自然再生にも並行して取り組んでいることを理解してもらえれば、と結んでいました。私としては、サケを中心とした人や動物のネットワークという、従来とは別の角度から知床を提示した興味深いツアーだったと感じました。
2回続けてサスティナブルウィークの報告でしたが、期間中はこの他にも様々な試みを行っていました。また後の記事で別の試みを紹介できればと思います。
(事務局・船木大資)