設立趣意書

一般財団法人 知床自然大学院大学設立財団 設立趣意書

近代以降、世界的規模で繰り広げられた発展と成長は、自然環境の破壊や汚染、地球規模の環境問題を引き起こしました。人間が自然を越える存在であるかのような文明そのものが、今問い直されています。私たちは生命連鎖の宇宙的秩序を厳粛に踏まえ、その完全なる調和の中に人類が存続し続ける道を探り、実現しなければなりません。

現在、野生生物と人間社会との間には様々な問題が生じています。絶滅危惧種の保護や生息環境の保全、外来種対策、鳥獣被害の防止など、野生生物と人間社会との軋轢を回避し、共存や適正な関係を保つための課題を解決することが求められています。そのためには、自然と人間とのあるべき関係を示す新しい思想を創造し、実現のための戦略や技術の創出、それらを担い自然環境や野生生物と人間社会との関わりを追求する研究者や専門家の育成が急務と考えられます。

2005年に世界自然遺産に登録された知床半島は、この理念に基づく研究・教育を行うために最も適している場と考えます。流氷がもたらす豊かな海・オホーツク海に囲まれ、海岸から高山帯まで原生的な自然に覆われた知床半島は、海域と陸域が一体となった複合生態系を形作っています。そこにはシマフクロウやオオワシなどの国際的な希少種が生息し、ヒグマやシャチなど食物ピラミッドの頂点に位置する生物が揃う、貴重な生物多様性が保存されてきた地域です。早くから国立公園や各種の保護地域に指定される一方、自然の保護と開発や利用をめぐる様々な問題が生じ、その解決に専門家や行政、地元住民の心血が注がれた地でもあります。また、半島基部は有数の農業地帯であり、周囲の海では持続的な漁業が営まれ、豊かな自然を求めて多くの観光客が訪れます。ここでは長年にわたり自然との共生に取り組む地域力や民力、ネットワークの力が育まれ、自然資源に加えこれらの社会的資源にも恵まれています。

「知床自然大学構想」は、1986年に策定された斜里町総合計画に盛り込まれて以降、町、民間レベルの知床自然大学ワーキンググループ、官民協働の知床自然大学構想づくり協議会と20年以上にわたって検討されてきました。

この構想を引き継ぎ、自然との共生を目指す国内・世界のニースに応えられる研究と人材育成を行う大学院に相当する高等教育機関「知床自然大学院大学」を実現するために、一般財団法人を設立し、開設に向けた準備を行うものです。

設立者 午来 昌 

設立者 上野 洋司

※当法人は、2014年1月30日に内閣総理大臣から公益認定を受け、「公益財団法人知床自然大学院大学設立財団」になりました。

2016/10/04