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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第10回実施分)

「ワイルドライフマネジメント」第10回実施 人口縮小時代の野生動物管理 ― 持続可能な地域のために

アンケートのご質問への回答は、以下の通りです。なお、質問の意味が理解できないものもあり、それらの回答は掲載しておりません。※リンクを有効にしました。

Q1 今回の講義内容とはちがうのですが、先日NHKの「ダーウィンが来た」で、富士山麓でシカの駆除が行われたために、シカが浅間山の高山帯に逃げ込み、カモシカの特殊な個体群に影響を与えているという話がありました。このような事態を防ぐために、駆除に際してとりうる対策にはどのようなものがあるでしょうか?
A1 この番組を見ていないので、コメントできません。

Q2 東京農工業大学などが立ち上げたリーダー作りの講義を開設したとか宇都宮大学などの鳥獣管理士の資格制度がリーダー作りを行っているようだが先生の講義では、村長や安田さんのように専門家ではない方々がリーダーになっているようです。学問からだけではなくこのようなリーダー作りはどのように進めたらいいのか先生の考察をお聞かせください。
A2 大学での学びは、野生動物管理の専門職人材育成を目指しており、組織のリーダー育成を目的としているのではありません。組織のリーダー育成は大学の学びだけではできないと思います。

Q3 途中の質疑応答で「狩猟者同士に縄張り意識がある」と回答していたと思うのですが、実際人為的に檻の入口を降ろされたことで結果的にその人は追放されたようなんですが、ここから分かるように狩猟者の質も上げなければエゾシカの事業は発展していかないのでしょうか? 分かりにくくて申し訳ございません。
A3 意味がとりにくいですが、スポーツ狩猟も当然モラルが求められます。駆除には狩猟者が従事していますから、狩猟者の質の向上が必要です。

Q4 梶先生のように人材育成に尽力されている先生も大勢いらっしゃいますが、最近は大学の仕事が忙しすぎるとの声も聞きます。それは何故でしょうか?また解決策、対応策はあるのでしょうか?
A5 現在の大学教員は、教育研究のみならず、学内行政、予算獲りなどで忙殺されています。その理由のひとつに、運営交付金を毎年一定の率で削減され続けていることがあげられます。教育についていえば、一つの大学では解決ではできませんが、現在進めている。大学間連携によるコアカリキュラム、知床自然大学院大学設立財団のネイチャーキャンパスなどを活用して、人材育成の底上げをすることが考えられます。

Q7 北海道ヒグマ管理計画において、個体数を現在の推定数12,000頭から、個体数を7,500-10,000頭に減らすとありました。この水準は、人的被害がほぼ無く、農作物被害も軽微な程度に抑えられるという水準なのでしょうか?
A7 人とヒグマのあつれきが現在に比べ顕在化していなかった2001~10年ごろの推定規模です。

Q9 道が以前行ってきたヒグマ対策も地域の個体数を一定程度に抑えるなど、基本的な考え方としては新しい方針と同様と感じられますが、対策、方針の問題点はどこにあったのでしょうか? また、今後、減少期と増加期で対策をどのように変化させていくべきでしょうか?
A9 これまでのヒグマ対策は、個体数の上限を設定していましたが、減らさない政策をとってきたために、個体数は30年間で倍増しました。対策、方針の問題点は、個体数の増加やそれに伴う被害も増加したにもかかわらず管理政策の変更ができなかったことです。
今朝(6/4)の北海道新聞朝刊で、道ヒグマ保護管理検討会において「道は3日、ヒグマの捕獲目標を全道で年間で雌520頭に設定する方針を明らかにした。ヒグマの生息状況に合わせて分けた6地域で、それぞれ年間30~165頭を目安とする。道はこれまでヒグマの捕獲上限数を設定してきたが、具体的な捕獲目標を示したのは初めて。今後、捕獲の進め方などを検討し、来年度から取り組むことを目指す。」との報道がありました。個体数削減の捕獲目標数を定めたことを評価するコメントが多かったです。
私もコメントを求められ、以下の記事がでました。太字の部分は私のもともとの発言にはなかったものです。
東京農工大の梶光一名誉教授(野生動物管理学)=前・同検討会座長=の話
「道内ではクマの駆除数が急増しており、管理政策は失敗している。これまでいたずらな保護政策によって、人とクマのあつれきを増やし、結果的にクマの命を無駄にしてしまっている。地域が許容できる数に抑え、クマ肉などの資源も利活用することがベストだ。
今回の捕獲目標は「生息数がこれ以上増加しない」というだけの数字。まずは目標を達成し、2001~10年代ごろの水準の個体数に抑制するためには、何年までにどう態勢を整えるのか、早急にシナリオを作るべきだ。」

Q8 偏見かもしれませんが、田舎では外部や新しいことに対する警戒心や排除しようとする力が大きいのではないかと思うのですが、講義内でお話があった成功した村とは逆に、なかなかうまくいっていない地域の原因や実態の情報がもしありましたら知りたいです。
A8 兵庫県のモデル集落で獣害対策を実施している、兵庫県森林動物研究センターの山端さんによると、うまくいかない地域の特徴としては、そもそも営農意欲(やる気)がない場合、獣害対策で何が課題かわからない場合の二つが主な原因とのことでした。

Q10 紹介していただいた事例では、資源化がしやすい種(イノシシやシカ)が対象でしたが、アライグマなどの資源化が難しい種の駆除が必要な場合にも地域主体での対策は可能でしょうか?またリーダーの存在が必要とのことは全く同意ですが、長期的に考えると組織化して継続して活動できることも非常に重要と考えますが、そこが難しいと感じています。上手く組織化し継続して成功させるために必要なことは何とお考えでしょうか?
A10 アライグマは農業被害の顕著なところでは地域主体の有害獣駆除を推進し、分布拡大地域では特定外来生物とされているので、外来生物法に基づく分布抑制の取り組みが必要です。
兵庫県丹波篠山大山地区では住民主体のアライグマ捕獲隊が活躍しています。
兵庫ワイルドライフモノグラフ12: 49-66, 2020

Q11 牧草地を本来あった広葉樹に置き換えた場合、鹿の頭数に影響はでるのでしょうか。
A11 広葉樹も良いシカの生息場なので、シカの個体数を増加させます。また、現状のシカ密度では広葉樹の林は育ちません。

Q12 序盤にクマは餌がなければなんでも食べるという話がありました。クマが人間を食べるために襲うことはないとかつて学び、そのとおりだろうなと思ってきましたが、最近は家畜を好んで襲っていたり、カモシカ(幼獣)を狩るような動画もYouTubeで見ました。https://www.youtube.com/watch?v=m6u_4s1tJfU  これらのことから、クマが人を食べるために襲うこともあり得るのでは思い始めました。梶先生はあり得ると思いますでしょうか? 家畜やカモシカの幼獣よりは人間は狩りづらいのでは思うのですが、それが理由で今までに例がないだけでしょうか?
A12 姉崎等の語り『クマにあったらどうするか』(木学舎)の聞き書きを行った片山龍峯 のあとがきに、クマは獰猛なのに人間を恐れる理由について、姉崎さんの説明を「クマが人間の行動をじっと見ていて、とてもかなわないと恐れの気持ちをもっているからだ。弓矢を使っていた時代でさえ、その毒矢によって倒れていく仲間をみて人間の気味の悪い強さを感じとって恐れの心をもっていたからだ」と紹介している。続いて、Bear Attacksの著者の Stephen Herreroの考えを次のように紹介(翻訳)して、その類似に驚いている。
「たとえば、われわれ人間は、武装していないと、ひ弱なクマにさえろくに退行できないのに、人間がクマに獲物として扱われることはごく稀にしかない。すでに述べたように、クマのこうした抑制を形成するうえで最大の影響を及ぼしたのは、人間の能力だったと考えている。大昔の人間でさえもときにはクマを殺したし、時代が進むとともに、人間はクマを殺す技術にたけてきた。このメッセージが、生き残ったクマの遺伝子のなかに組み込まれ、それはいまもだいたい残っている。生まれながらにして人間を避けるという傾向はそこから生じたものだ」

新世代ベアーとも呼ばれる人間を恐れないクマは、人間を獲物と見なすようになったのかも知れません。2001年:札幌定山渓豊羽鉱山、2023年:大千軒岳、朱鞠内湖の3件では、クマに襲われて食害されています。

Q13 獣害対策に良い印象を持たない市民が一定数おり、都市の規模が大きくなればなるほど獣害対策に反対する声は大きくなります。また、現代のような情報化社会では、市外の方々も簡単に抗議してくる現状があります。こういった反対派からの抗議を警戒して、獣害対策に踏み切れない自治体が多いように感じているのですが、反対派への対応はどのようにすべきとお考えでしょうか?
A13 これまでは獣害は地方の問題でしたが、近年はクマ類、シカ、イノシシ等の大型獣が都市近郊に定着し、居住地に侵入する事例が増えています。いわゆるアーバンワイルドライフの問題です。また、人獣共通感染症の問題は都市の人間もリスクを負っています。このような事実と対策の啓発普及が必要でしょう。

Q14 狩猟者による縄張り問題についての話がありましたが、先生の意図としては、既存の猟友会に依存した体制は脱却した方が良いが、猟友会などの組織の存在までは否定していない。という認識でよろしかったでしょうか? 現在、多くの地域で地元猟友会等が捕獲作業を担っていますが、今後猟友会の代わりの組織としてはどのような団体が適切なのでしょうか? (認定鳥獣捕獲等事業者?)また、既存の猟友会はどのような形で野生動物保護管理に携わるのが適切なのでしょうか? 西興部村や島根県美郷町で鳥獣関係でどれほどの利益を出しているのでしょうか?
A14 とても多くの猟友会会員の方が駆除に従事して貢献しているのは事実です。このような取り組みは継続する必要があります。一方、アクセス困難な山岳地域や、居住地に侵入した大型獣の捕獲を、本来は趣味の狩猟を目的とし、高齢化が進んでいる猟友会会員にいつまでも頼ることはできません。地域の中間組織に捕獲の担い手を配置する必要があるでしょう。各県にある林業学校で育成するフォレスターには、森林管理の一環としての狩猟学を学び、捕獲技術も身に着けるべきだと思います。既存の猟友会員のなかでも、個体数管理に関する技量や知識を有する方を認証する仕組みがあるとよいと思います。ジビエ産業で大きな利益を生むことは難しいですが、ゴミ(マイナス)を資源(プラス)に転じることは、経済的価値ばかりでなく波及効果があると思います。

Q15 ①講義でも出てきましたが、特に過疎地域において、よそ者が対策に当たるというのは、どんなに良い方法であったとしてもなかなか地域に受け入れて貰えないように思います。また、高齢者の多い地域だと、伝統を守り、新たな事業の導入は後ろ向きのような感じがします。そのような地域で、よそ者が中心となって対策を行う場合の方法や気をつける点があれば教えて頂きたいです。②鹿やイノシシなどは、農家さんが電気柵などの対策を自分で取り組めると思いますが、クマでも同様に農家が自分で対策出来ることはあるのでしょうか。最近は、人を食べ物として認識しているクマや人間の存在を脅威と感じないクマのニュースを目にします。そのような場合は、人間が実なる木を切ったり、農作物栽培をやめているようなのですが、農家さんなどそれで生計を立てている人には難しいと思います。
A15① 鳥獣被害対策専門員に関する調査結果(福島県:平成28年度)によると、県内59市町村へアンケートを実施したところ、専門職員の配置は、県全体の約72%が必要と回答しています。福島県では、国の交付金などを活用して、鳥獣被害対策市町村専門職員育成支援事業を実施しいており、12市町村に15名が配置されています。このように受け皿があれば、よそ者が活動できる場が設定されるでしょう。
A15② 本州でクマを誘因しているのは、収穫しないで放置してある柿の木です。クマが農作物に誘引されるのであれば、電気柵で防除することは可能です。

Q16 講義の中で、「福島原発事故を原因とする、慢性的な低線量被曝による有害な影響(細胞レベルの損傷)は検出されなかった」とのことでしたが、放射線被曝の影響は何年も後に出てくる可能性があるかと思います。その点について、周辺地域では継続した調査が行われていくのでしょうか?
A16 低線量被ばくの長期的影響に関する学術的な研究報告はほとんどないため、被ばく牛を用いた研究が継続されています。
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20230106-1.html

Q17 狩猟者の既得権が強いとのことでしたが、野生動物はコモンであり所有者はいないと思いますが、このような考えは無いのでしょうか? 野生動物管理を道路等公共施設の管理の様に、請負契約し税金で行う事は出来ないでしょうか?
A17 日本では野生動物は無主物です。野生動物管理は、都道府県は鳥獣保護管理法に基づいて、指定管理鳥獣等捕獲事業(シカ・イノシシ・クマ類)を都道府県知事が認定した、認定鳥獣捕獲等事業者に請け負わせています。市町村は、鳥獣被害防止特措法に基づき、被害防止計画に基づく捕獲、防護柵の設置といった実践的活動を担う、「鳥獣被害対策実施隊」を設置しています。

Q18 野生動物管理の専門家を育てる必要性はわかるが、その人たちの受け入れ先は行政?NPO? 講義のスライドで、イノシシの分布地図に、北海道にも点があったようにみえましたが、北海道にもイノシシいますか?
A18 鳥獣被害対策専門員は市町村(A15)、野生動物管理専門員は国、都道府県などの行政のほか、森林組合や猟友会などの地域の中間組織、NPOにも配置が求められる。第12回の講義でふれます。
北海道の足寄町にイノブタがいます。

Q19 原発事故後の福島県に生息するイノシシのお話が大変興味深かった。シカはなぜ西から東へ分布を広げているのでしょう?
A19 栃木県北部にいたシカが隣接する福島県の西部に侵入し、定着後に空白地域であった東へ分布を拡大したからです。

Q20 スライド上にあった2024年のシカ捕獲認証の取得者DCC1の179名とDCC2の3名でかなりの人数差があり、この2つのなにがこの違いを生み出したのかが気になりました。
A20 DCC1は基礎編で、DCC2は捕獲を伴う実践編の差だと思います。

Q21 なぜ国は森林管理とシカ管理を別ものとして取り扱っているのでしょうか?
A21 本日(6/4)の講義で説明します。

Q22 国有林職員のわなによる捕獲事例の紹介があったが、北海道有林内で同様に北海道庁職員がニホンジカを捕獲などする話は無かったのでしょうか? 無かった場合、なぜ国有林職員だけが出来たのでしょうか? また国有林や北海道に限らず行政職員が主体的にニホンジカを捕獲する事例は多いのでしょうか? 他地域の事例があれば知りたいです。
A22 道有林では、「一般狩猟等の安全対策及び林道除雪等による捕獲環境を整備するとともに、道有林を活用したエゾシカ捕獲を実践する」とあり、捕獲事業の主体というよりも支援するというスタンスのように思います。国有林は北海道の森林の過半数(55.5%)を占めているのに対し、道有林は11%と森林規模の違いがあることが原因かもしれません。行政は捕獲事業の発注者であり、国有林における罠捕獲のほかには知りません。

Q23 毎回大変勉強になります。ありがとうございます。「シカ捕獲認証制度」を初めて知り、大変興味をもちました。受講したいと思いますが、現地まで行く機会がありません。オンラインによる開催はあるのでしょうか。
A23 エゾシカ協会のホームページにありますが、講義と実習とも直接参加が必要です。
https://www.yezodeer.org/project/dcc/application/2024/DCC_app_2024.html

Q24 冬の降雪下であっても電気柵は有効だとの説明がありましたが、電気柵の支柱やワイヤーは丈夫ではなく、圧雪により破損してしまう現状があります。このような背景から、冬は電気柵を撤去するのが通例だと思うのですが、冬にも有効だとする根拠をもう少し詳しく説明していただきたいです。
A24 ある業者から「スーパーフォレストシステム」という電気柵は立木に留め具を用いて設置し、高いテンションをかけるので、冬期に撤去する必要はないと伺いました。https://surge-m.co.jp/home/products/disease_control/superforest/

以上

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