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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第9回実施分)

「ワイルドライフマネジメント」第9回実施 野生動物管理システム研究 ― 研究経営論

アンケートのご質問への回答は、以下の通りです。※URLのリンクを有効にしています。

Q1 積雪の多い札幌では、冬季電気柵では果樹をシカから守ることは出来ない。また、自助は大切だが、高齢化、後継者不足との兼ね合いがあり、ある技術を上手く使えてないのでは?と思う点。
A1 業者さんの説明によると、「一般に、電気さくは、雪に覆われると漏電でつかいものにならなくなると思われる方が多いのですが、雪が奇麗であれば殆ど問題になりません。純粋の水は、絶縁体で、汚れるほど通電します。」とのことです。ご指摘のように、高齢化と後継者不足で自助が困難な状況が増えています。その場合には、共助や公助の補完性原則で対応する必要があります。

Q2 都市近郊においても、ハクビシン・アライグマ・イノシシ等、外来生物を含めて、種々の動物による市民生活への影響が広がってきています。まだ、人的な被害には至っていないため、市民の関心度は低く、行政も、予算措置を講じるような必要性を感じていない状況です。このような中にあって、ミクロからマクロまでの階層間におけるスムーズなコミュニケーションの構築の難しさを感じると共に、どのようなツール・手法によって実現が可能なのか、描くことが出来ない。
A2 ご指摘のとおり、市民の関心が低い段階では行政は動きません。通常、動物による被害が社会問題となってから、行政が対策を講じるのですが、分布や生息数が拡大して対応が困難となる場合が多いです。まずは、野生動物とヒトとの間でどのような軋轢が起こっているのかを調べてて地域で共有し、共感できる市民を増やしていくことが必要だと思います。

Q3 水域の割り振りと野生動物の管理との関係・・・どう理解して良いのか?
A3 講義では触れたように、双方ともランドスケープレベルの空間スケールを対象とし、その空間スケールごとに関係者が異なることが共通しています。
詳細は、『ワイルドライフマネジメント』『野生動物管理システム』(いずれも東京大学出版会)で紹介していますので、ご覧ください。

Q4 今回のご発表の範囲からは外れますが、最近の再エネと景観と野生生物の関係で、もし知見があれば教えてください
A4 まだ、詳細なことはわかりませんが、ソーラーパネル設置地域では野生動物の捕獲が行われないために、野生動物の保護区となる可能性があります。
「獣害シカの繁殖拠点になる?メガソーラーに新たな問題」
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4c0184bfb32eebb9a7353e693d347e592e3d99ec

Q5 流域単位の管理は生態系で非常に重要だと思いますが、野生動物のように稜線を越えて移動するものは、山塊レベルの広域管理も必要ではないかと思いますが,いかがでしょうか?
A5 山塊は行政の境界を含む場合が多いので、ご指摘のように広域管理が必要です。
そのような事例として、以下の取り組みがある。
「関東山地ニホンジカ保護管理指針」(1都4県:埼玉県・群馬県・長野県・山梨県;国:環境省・林野庁・農水省),「白山・奥美濃地域ツキノワグマ広域保護管理指針」(5県:富山県・石川県・福井県・岐阜県・滋賀県)、ツキノワグマ西中国個体群(3県:島根・広島・山口)、近畿北部・東中国地域個体群(4県:兵庫・京都・鳥取・岡山)

Q6 住民と学者の協働の事例を具体的に紹介してほしい。
A6 ①知床世界自然遺産地域科学委員会のほか、世界自然遺産地域の科学委員会は地元の行政や地域連絡協議会と連携しています。第8回講義
②赤谷プロジェクトでは、群馬県みなかみ町北部、新潟県との県境に広がる、約1万ヘクタール(10km四方)の国有林「赤谷の森」を対象に、地域住民で組織する「赤谷プロジェクト地域協議会」、林野庁関東森林管理局、日本自然保護協会の3つの中核団体が協働して、生物多様性の復元と持続的な地域づくりを進める取り組みを進めています。
https://www.nacsj.or.jp/akaya/
③兵庫県森林動物研究センターでは、施策実行手段の確保のために「森林動物専門員等制度」の創設し、モデル集落において地域住民との協働で獣害対策を実施しています。
https://wmi-hyogo.jp/index.php/center

Q7 最近国土交通省は流域治水の考え方を導入しましたが、野生動物管理は2010年代から流域管理が実施され全国的に実績があり、駆除が有効に機能しているのですか?
A7 最近改正された、農林水産省の鳥獣害防止特措法は、有害駆除のみならず、潜在的に被害をもたらす個体の広域的捕獲を視野に入れており、特定計画における個体数調整と同じ目的である。しかし、その効果については評価されていないと思います。

Q8 野生動物に関する問題は、野生動物そのものが生み出す問題というより、その問題に対処する人間社会の体制の問題の方が大きいと感じました。技術や研究はは進んでいるものの、それを上手く活かせないという課題を、限られた人員や予算で解決していくために良い方法ははあるのでしょうか? 先生のお考えを聞かせていただけたらと思います。
A8 獣害問題の背景には人間社会の変化がありますが、対策の技術的な問題というよりも、獣害対策の基本的な考え方(自助・共助・公助)、技術の正しい利用の仕方、それを可能とならしめる体制の問題にあると思います。このようなことに対処するためには、高等教育による野生動物管理の専門職を育成することが必須です。

Q9 日本はなぜミクロ、メソ、マクロの相互でコミュニケーションをとることが難しいのでしょうか?
A9 空間スケールに応じて生じる問題や関係者が異なるために、階層間でコミュニケーションをとることが困難となります。日本に限った問題ではないと思います。

Q10① イノシシ、シカともに日本において食害が問題となっており、管理においてメスジカの積極的な捕獲が推奨、非狩猟期においては昼間でも積極的に行動する等類似点が多いように思われるが、生態的に又は管理においての相違点はあるのでしょうか?
A10① 生態において、イノシシの1腹産子数は4頭以上となり、ニホンジカの1産1子に比較して、繁殖力が極めて高い。一方、厳しい冬にはウリンボの死亡が起こるので、個体数の年次変動が大きい。イノシシは単胃獣であるのに対し、シカは反芻獣であるために、イノシシのほうが、シカよりも人為的攪乱に対して柔軟に行動変化を起こすことができる。
管理においては、イノシシ、シカとも繁殖基盤である雌成獣の捕獲が重要であるが、イノシシの場合、ウリンボが生き残ると翌年に繁殖可能となるため、亜成獣雌の捕獲も重要となる。

Q10② 二ホンジカは海外のシカに比べて、繁殖力が強く、嗜好植物がなくなっても不嗜好植物を食べるため生命力が強いとおっしゃっていましたが、日本のイノシシは海外の個体と比べて、個体数管理や駆除において特に着目しなければならない生態等はありますでしょうか?
A10② まだ、日本のイノシシの生態研究は進んでいたいので、海外のイノシシと比較することができません。ですが、繁殖力の高さは共通しているので、捕獲戦略として繁殖基盤となる成獣雌、亜成獣雌を中心に捕獲することは同じです。

Q10③ 日本ではイノシシの成獣雌の選択的捕獲が実施されていないとおっしゃっていましたが、その点ではシカの個体数管理のほうが進んでいるのでしょうか? イノシシによる被害よりも、シカによる被害のほうが初期より認識されたため、研究や対策が進んでいたのでしょうか?
A10③ 日本では、シカについては、個体群動態研究が先行して行われ、その研究成果に基づいたフィードバック管理が実施されてきました。一方、イノシシについては、最近まで、個体数推定が困難だったこと、また個体数が大きく変動するために、個体群管理は不向きとみなされ、被害対策技術の開発が優先されてきました。現在では、イノシシの個体数密度のモニタリングは、RESTモデルとよばれる自動撮影カメラを用いた手法と密度指標(掘返し痕跡など)の組み合わせで可能となった(横山 2023)。科学 24/4

Q10 ④ 海外ではトロフィーハンティングの側面から、角の大きな雄鹿の狩猟が積極的に行われるため、スポーツハンティングによる個体数管理を今後も維持していくのは難しいとおっしゃられていました。海外において角を持たず、大きな性差のないイノシシのスポーツハンティングによる個体数管理は上手くいっているのでしょうか?
A10④ 海外においても、スポーツハンティングによるイノシシの個体数管理は、狩猟者の減少とイノシシの繁殖力の高さによって、困難となっています。

Q11 自助の強要ではなく上手く進んでいる例を教えてほしい?
A11 山端直人(2023) これからの地域社会のための獣害対策 ―地域政策としての獣害対策を考える 科学 24/4 (岩波書店)をご覧ください

Q12 補完性原則で地球よりも大きな単位が必要になったらどうするのか?
A12 地球上の事象を対象としています。

Q13 梶先生は生態学分野内ではあまり聞き馴染みのない語彙(特に抽象的な表現)をお使いになると日頃から感じておりました。こうした言葉の数々は社会学方面の方々との関わりの中で耳にしたものが多いのでしょうか?
A13 おそらく、生態学と社会科学を繋ぐ用語についてと思いますが、そのような語彙を用いる場合にも、必ず用語の定義をするようにしています。

Q14 佐野市の成果は地域住民にどのくらい認知されているのでしょうか?
A14 プロジェクト期間中は、若手研究者たちが、頻繁に現地を訪問し、毎年成果発表会を地元で広報をして、実施していたので、成果の認知度もそれなりにあったと思います。

Q15 書籍及び講義の中で、栃木県・宇都宮大学との包括協定後の野外実習は梶先生が退官される2018年まで続いたとのことですが、それ以上継続することはなぜ困難だったのでしょうか? また、今の学生さんには同様の機会を他の場所などで学ぶ場があるのでしょうか?
A15 大学の教員はみなさん多忙を極めており、引き継いでくださる教員がいなかったからです。私の退官後、農工大では、野生動物管理教育研究センターが設立され、大学間連携で、野生動物管理教育のコアカリキュラムの実施を試行し、野外実習も行いました。
https://web.tuat.ac.jp/~cwmer/education.html

Q16 人口減少社会にあって、獣害防止の有効手段はあるのですか?
A16 獣害防止の技術はほぼ完成しています。それを適正に用いるヒトと体制がないのです。

Q17 西興部村と美郷町共に、野生鳥獣問題をマイナスとせずに、プラスに転換できる事業であり、全国で実践できるのが望ましいと思ったが、なかなか難しいと実感する。おそらく、同じ時期に他地域でも同じような話があったとしても、表に出ないだけで失敗している地域が多いのではないか? 逆になぜこの2地域は成功したのか梶先生の考察をお伺いしたい。
A17 講義でお話します。

Q18 本講座とは全く関係ありませんが、現在日高の国立公園化において公園の名称を決めるだけでも各ステークホルダーの考えの違いから対立する形になってしまっているようで、コミュケーションの難しさが表れていると感じます。このような状況でワイルドライフマネジメントが可能なのか不安になりますが、梶先生のご意見があれば聞いてみたいと思いました。
A18 バックグラウンドが異なる方は、異なる価値観をお持ちです。ともすると価値観の相違の論争になりがちですが、一緒に現場を見て歩き、現地の人々との会話をすることによって、地域の課題についての共通認識を持つことができます。そこから、進めることが良いと思います。

以 上

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