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オンライン特別連続講座「ワイルドライフマネジメント」質問へのお答え(第12回実施分)

「ワイルドライフマネジメント」第12回実施 大学の野生動物管理専門家教育 ― 実現に向けた取り組み

アンケートのご質問への回答は、以下の通りです。

Q1 野生動物管理の専門人材育成のため、これまで梶先生初め多くの方々が多大な尽力をされてきたと知りました。現在社会人ですが、社会人が自然環境や野生動物の分野で学び直す手段や、キャリアチェンジをする手段についても、もしあれば知りたいと思いました。
A1 社会人の学び直しのリカレントプログラムについても、コアカリの延長として準備しております。また、知床自然大学院大学設立財団でも、社会人向けのネイチャーキャンパスのプログラムを準備しています。

Q2 講義前の、前回の質問に答えるコーナーで、シカに対してのクマからの捕食圧は無かったというお話がありましたが、逆に、シカによる植生破壊のせいでクマの食べ物がなくなり、クマが里に降りてくる原因になるというようなことはありますか?
A2 その可能性は高いです。シカが森林の下層植生や実のなる木本植物を食いつくすために、もともと餌が不足する端境期の夏にクマにとって、利用できる餌がなくなるためです。
カナダのアンティスコッティ島にはかつてアメリカクロクマがたくさん生息していましたが、導入されたオジロジカがクマの餌を食いつくしたために絶滅しました。日本でも、将来そのようなことが起こる可能性はあります。
Côté, S.D. 2005. Extirpation of a large black bear population by introduced white-tailed deer. Conservation Biology 19:1668-1671.

Q10① 鹿が増えたこととヒグマの個体数の関係について、無関係との講義でした。鹿が増えると冬眠明け、春先の餌がヒグマには採れなかったり、秋もドングリなどの餌が十分に取れないとか、影響はあるのでないでしょうか?逆に子鹿を食べるクマや鹿の死体を食べるクマが肉食化して3頭の子を育てるというのも、鹿が増えた影響とは考えられないでしょうか。
A10① A2の回答と同様。クマは雑食のため、一次的に肉ばかり食べますが、一定量を超すと制限がかかり、肉食に特化するということはありません。シカを食べて栄養状態が良くなったという論文はありますが、それによって3頭を出産して子育てに成功するかどうかについてはまだ研究は無いと思います。

Q10② エゾシカの利活用はイノシシや本州鹿に比べて、あまり進んでいないように感じますが、先生は何が原因だと思われますか?
A10② 詳細なデータはないのですが、エゾシカの利活用は捕獲数の20%程度、本州の10%程度の2倍の利用率だったと思います。北海道は全国に先駆けてエゾシカの有効活用を推進してきました。

Q3 仮に資格取得しても活躍の場所や人数は約束されていますか?
A3 現在では資格制度、認証の在り方、人材の配置について省庁と意見交換会を実施している段階であり、約束はされていません。その実現に努めています。

Q4 野生動物対策を通じて未利用地などを地域の資源とし、地域コミュニティを活性化されるととてもいいなと思います。しかし、中山間地域の集落や地区でそういった活動が出来る元気がある地域はごく一部でほとんどは、高齢化や人手不足から「これ以上作業を増やしたくない」と思っている人が多い気がします。そういった方が前向きに地域資源の利用に取り組めるようになるためにはどのような活動や仕組みが必要だと考えられますでしょうか?
A4 第10回講義で紹介した島根県美郷町(ワイルドライフマネジメント第10章)は、過疎高齢化の典型の集落ですが、町と地域住民が連携して、地域資源の活用に関心のある関係人口を増やすことによって、地域コミュニティを活性化しています。ひとつでも実例があれば、それは実現可能性を示しています。

Q5① 狩猟者育成について銃猟の狩猟者を想定していますか?
A5① コアカリでは、捕獲技術としてわな猟、銃猟、関連法規を学びます。知床自然大学大学院設立財団では、今後、狩猟者育成のDCCプログラムとの連携を検討する予定です。

Q5② 広島県のテゴスのような民間のフィールドの専門家育成とフィールド研修の想定はあるのでしょうか?
A5② 知床自然大学院設立財団は、民間として、ネイチャーキャンパス事業を通じてフィールド研究による人材育成を実施しています。将来は大学のコアカリやリカレントプログラムとの連携も視野に入れています。

Q5③ 宇都宮大学などがおこなっている鳥獣管理士とどのように違いますか?
A5③ (一社)「鳥獣管理技術協会」が実施している鳥獣管理士、鳥獣害の基礎・応用・実践のプログラムを通じて資格を認証する制度で、事務局は宇都宮大学にありますが、大学の教育プログラムとは無関係です。コアカリは大学間連携による教育プログラムで、基礎的なものが多いです。

Q5④ 東京農工大学や岐阜大学兵庫大学などの連携した専門家の育成は学生に限るとききましたが、NPO法人などの現在実際に集落や行政で野生動物管理や鳥獣害対策を行っている団体との連携はどのように考えているのでしょうか?
A5④ 大学間連携のコアカリキュラムのプログラムは学生向けですが、社会人向けには、コアカリと連携した社会人向けのリカレントプログラムを作ることを想定しています。

Q5⑤ アーバンワイルドライフの管理はどのように進めるのでしょうか?
A5⑤ 7月27日午後に「鳥獣保護管理法第38条に係る緊急シンポジウム」アーバン・ワイルドライフ対応に求められる技能と体制~鳥獣保護管理法(第38条)の改正を見据えて~(主催: 野生動物管理全国協議会 共催: 「野生生物と社会」学会 行政研究部会)で、この問題を議論しますので、以下のポスターにある申し込み方法を参照に、オンラインで参加してください。
https://www.wildlife-humansociety.org/gyousei/gyo-event/20240727_poster.pdf

Q5⑥ 確認になりますが、無主物の動物の捕獲に山林所有者の許可はいらないのでしょうか?
A5⑥ 第11回講義のQ13の回答をご覧ください。

Q5⑦ 現在の状況に銃猟巻き狩りグループの縄張り問題がありますがそこのところはいかがお考えでしょうか?
A5⑦ 神奈川県丹沢山系での捕獲は、地元猟友会は低標高から中標高を銃猟巻き刈りで実施し、高標高のアプローチの悪い稜線ではワイルドライフレンジャーが、主に忍び猟で捕獲するなど、場所と捕獲方法のすみわけが行われいます。アクセス困難地域を専門的捕獲技術者が担うという方法が良いと思います。

Q6① 初歩的な質問ですが、「野生動物管理全国協議会」という組織が出てきましたが、この組織はどのような目的の集まりで、どのような構成機関が集まっているのでしょうか?
A6① 個体数管理が急務とされている野生動物について、その適正な保護管理を推進するための社会基盤の構築、および各省庁・都道府県・市町村等の施策を効果的に実施するための学術的な調査研究を基礎とした政策提言と事業支援を行うことを目的として設立しました。そのほかの詳細な情報については、以下を参照してください。
https://j-wma.com/
Q6② また、梶先生の立場として、協議会の会長であったり大学教授の肩書で合ったりと様々な立場を使い分けているかと思いますが、使い分けに何か理由や意味等何かあるのでしょうか?
A6② さまざまな活動組織に関係していますが、特に立場を使い分けていません。

Q7 漁協がカワウ被害対策を民間企業に委託していましたが、民間企業はやや乱立している印象があります。企業実績の見極め方(前年度の捕獲数だけでなく、認証資格の有無など)を教えてもらえれば助かります。
A7 実態を把握していないため、お答えできません。

Q8 大学生よりも下の学生(高校生や中学生)と結びついて野生動物の管理を考え行動する枠組みは考えられるでしょうか? 地方には大学がない地域も多く、若者となると高校生までという地域がある中で、日本全国でこの枠組みを広げるにはどのような考えや行動が必要か考えないといけないと思いました。
A8 知床自然大学院大学設立財団では、高校生までを対象としたプログラムを準備する予定です。知床ネイチャーキャンパス2024「自然にかかわるWORK & PEOPLE」(8/25座学、9/23-25野外実習)は、高校生から大学生までを対象しています。詳細は次のURLをご覧ください。https://shiretoko-u.jp/

Q9 野生生物管理のカリキュラムは大学院(修士)で実施されているとの話でしたが、今後大学生向けのカリキュラムとして実施していく可能性はあるのでしょうか? 紹介があったアンケートでも実習期間が短いという回答結果が出ていたので、3年生くらいから様々な場所で実習ができるようになればと思いました。野生動物管理には獣だけではなく、鳥類・魚類、両・爬虫類などに対しても必要ですが、そのようなカリキュラムも存在しているのでしょうか?
A9 コアカリキュラムは学部から大学院までの受講を想定しています。コアカリキュラムでは、まずは急増して人間との軋轢をもたらせている大型獣が対象としています。段階的なコアカリの見直しのなかで、希少種の保全なども検討することになっています。

Q11 林学を専攻できる大学はもっと野生動物管理学を取り入れやすいのではないかと思っていました。林学には野生動物管理という観点はないのでしょうか? それとも林学の野生動物管理学とこれから目指す野生動物管理学とは異なるのでしょうか?
A11 ご指摘のとおりで、本来は林学のなかでフォレスターとなるために、野生動物管理や狩猟学を学ぶべきです。林学のなかに森林動物学という分野があり、そのなかで野生動物管理も部分的に扱っていると思います。根本的な原因は、鳥獣保護管理法を環境省が所管しており、森林管理者は野生動物管理を自分たちの本来の業務と見なしていないからだと思います。

Q12 野生動物管理を行う主体は実際に行うのは市町村だと思いますが、県を跨いで動き回る動物に対し複数県で対処するにはどこが主体となるのでしょうか?
A12 同一個体群をかかえる複数県で、広域協議会を設置して、その指針のもとに各県が管理計画を策定しています。そのような事例として、関東山地ニホンジカ広域協議会((1都4県(埼玉県,群馬県,長野県,山梨県),国(環境省,林野庁,農水省))、西中国地域のツキノワグマ個体群の「特定鳥獣保護管理計画」(広島県,島根県および山口県)、近畿北部・東中国ツキノワグマ広域保護管理協議会(兵庫県,京都府,鳥取県,岡山県)があります。

Q13 野生動物管理の将来予測果たして可能ですか?
A13 国立公園、国有林、自衛隊演習場など公有地の野生動物管理は、国が責任をもって実施するという制度ができない限り、とても厳しいと思います。

Q14 国立公園での個体数管理についての記述がありましたが、登山道上でシカの足跡や姿をよく見かけけるようになったと感じています。そこで、エゾシカと登山道の関係が気になりました。例えばエゾシカが積極的に登山道や林道を利用していて、高山帯への進出を促進させているという可能性はあるのでしょうか?
A14 ご指摘のとおり、登山道や林道はシカにとっても利用しやすいので、分布拡大や高山帯への進出を促進している可能性があります。

Q15 南アルプスなどの捕獲困難地かつ、これまでニホンジカが生息していないエリアでのニホンジカ対策の際に、ニホンジカの死骸を放置や埋設したとしても通常の環境とは変わってしまい、富栄養化やクマやキツネ類などの誘因も発生し、登山者やライチョウなどの他の関係にも影響があるのか?と思いました。梶先生としては、これまでニホンジカが生息していない箇所かつ、ニホンジカの死骸などがあると不自然なエリアで捕獲等をする際には、死骸なども回収など生態系などにも配慮するのが望ましいとお考えなのでしょうか?
A15 その懸念がないわけではありますが、実証されていません。本当に心配なのであれば、実験すべきです。高山帯の捕獲困難地は回収困難地でもあります。これまでシカが生息していないといっても、その昔は生息していたわけです。本州では、放置した場合、タヌキなどによって1週間たらずで消費されています。腐食連鎖に貢献はしますが、生態系に影響を与えるには、大量の死体を放置した場合に限られると思います。
Inagaki, A., Allen, M.L., Maruyama, T. et al. Carcass detection and consumption by facultative scavengers in forest ecosystem highlights the value of their ecosystem services. Sci Rep 12, 16451 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-20465-4

先日、知床世界自然遺産地域科学委員会シカWGで、知床岬のシカを捕獲したあとの残滓をどうするかの議論がありました。知床岬の場合は、放置した場合、ヒグマを誘因してしまい、人身事故につながることが懸念されました。その場合は死体の回収も必要になりますが、大変な労力がかかるので、ドローンなどの活用も提案されました。ちなみに、丹沢山系の高山帯稜線でのシカの管理捕獲では、死体は放置されています。

Q16 野生動物管理教育プログラムのコアカリキュラムが既に確定し実施されているとのことで、興味があって検索したところ農工大のR5年度受講生募集チラシを見つけましたが、シラバスなどは見つけられませんでした。また、紹介されていた全21科目100学修項目のうち一部だけが実施されているようでした。もし全体のシラバスをお持ちでしたら拝見させていただければ幸いです。
A16 シラバスは下記URLで学外の人でも検索できるようになっています。
「農学部特別講義」で検索できるはずです。
https://www.tuat.ac.jp/campuslife_career/campuslife/course/syllabus/
全21科目のシラバス、スリム化した10科目も公開はされていません。
環境省、農水省には公開をお願いしていましたが、いまだ実現していません。

以上

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