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【Interview】第4回:梶 光一さん

【Interview】では、知床自然大学院大学設立財団やワイルドライフマネジメント、知床の自然に関わる方々を紹介していきたいと思います。第4回は、東京農工大学教授で、当財団の計画策定専門委員長も務める梶光一さんです。

■梶さんはエゾシカやヒグマなど、中大型野生動物の研究者として国内外で活躍されていますが、この世界に入ったきっかけを教えてください。

私は東京の下町出身ですが、北には何かがある!と思い、1973年(昭和48年)に北海道大学に進学しました。そこで出合ったのが、ヒグマ研究グループ(通称・クマ研)というサークルが掲げていた一枚の張り紙。「質実剛健なる若者 若干名求む」と書かれていて、その言葉に魅かれてクマ研に入ったのが始まりです。それからは大学に通うよりも道内あちこちに行って野外調査し、知床にもよく来ました。地元の人がごちそうしてくれるなど、温かく迎えてくれましたね。

大学院に進み、78、79年は標津町の黒牛牧場にお世話になりながら、エゾシカの調査を行いました。ここは猟師として有名な久保俊治さん(注1)の牧場で、夏は馬、冬はスノーモービルでフィールドを駆け回る日々。当時、知床にほとんどエゾシカはいませんでしたが、足跡を追いかけて奥に進み、薫別川の越冬地でエゾシカを見つけたこともありました。

79年には、知床の海、山、川をフィールドに幅広い生物種を対象にした「知床半島自然生態系総合調査」が始まり、私も声をかけてもらって参加しました。クマ研の活動は、何事も仲間たちと新しくチャレンジできることが楽しかったです。当時は大学が今ほど忙しくなく、現場で学ぶ時間がたっぷりありました。


■梶さんは世界遺産知床の科学委員会・エゾシカワーキンググループ(注2)の座長を務めるなど、長年、知床のエゾシカを調査されています。エゾシカをめぐる知床の歴史や現状はいかがですか?

86年頃だったでしょうか。別の調査で撮った知床岬のエゾシカが写っている航空写真をもらい、それを拡大すると数を数えられました。これは面白い、と思ってその後もおりおりの調査のついでに続けると、エゾシカが急激に増えていくのがわかりました。99年には生息密度が1平方キロメートルあたり120頭に達し、植生がかなり破壊されてエゾシカの大量死亡が起こりましたね。

現在は「知床半島エゾシカ管理計画」に基づき、知床岬も含めた半島全体で各種モニタリングや個体数管理を行っています。最近の調査では、エゾシカの影響で一時期ほとんど見られなくなった希少種のオオバナノエンレイソウなどが見られるようになってきました。

■長く研究、教育の現場に携わってこられて、この分野の人材育成をどうお考えですか?

狩猟で野生動物に圧力をかけた時代から保護する時代を経て、今、日本では人口が急激に減少する時代になって人と野生動物との関係が岐路を迎えていますが、欧米のように野生動物を計画的に管理するための仕組みがありません。法律を改正する(注3)などの動きがやっと出てきましたが、今のままでは被害対策に多額の税金が投入される現状は変わらないでしょう。

一番重要なのは人材です。広い視点で自然と人との共存を考えながら、政策を企画・立案する人材が必要です。既存の大学でも体系だったカリキュラムがないのが現状で、そこのネットワークづくりはもちろん必要ですが、まず知床で、持続的に人材を育てる仕組みが欲しい。それが全国に広まればいいと思います。


■梶さんには昨年に続き、知床ネイチャーキャンパス2017の講師を務めていただきます。一言メッセージをいただければ。

百聞は一見に如かず。自然の中で学ぶのが最大の学習です。本当の自然は何か、そこで何が営まれているかを、現地の人たちと現場で学べるのが一番大きいと思います。全国からいろいろな学生や社会人が受講生として来ますから、バックグラウンドが違う人たちと、同じ時間に同じ場所で同じものを見て、そこで議論することが非常によい経験になると思います。

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梶 光一(かじ・こういち)
1953年、東京都生まれ。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。北海道環境科学研究センター主任研究員を経て、2006 年より東京農工大学農学研究院教授。30 年間にわたりエゾシカ研究に従事し、北海道全域のモニタリングシステムと管理計画を策定する。知床世界自然遺産地域科学委員会委員、「野生生物と社会」学会会長。著書に「野生動物の管理システム」(編著・講談社2015 年)、「エゾシカの保全と管理」(編著・北海道大学出版会2006 年)、「世界自然遺産知床とイエローストーン」(編著・知床財団2006)、「日本のシカ:増えすぎた個体群の科学と管理」(編者・東京大学出版会 2017)ほかがある。
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(注1)根室管内標津町の猟師。『羆撃ち』(小学館文庫、2012年)の著者。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」TBS「情熱大陸」などでその生き様が紹介されている。

(注2)知床の自然環境を把握し、科学的なデータに基づいて海域と陸域の統合的な管理を行うために必要な科学的助言を得るために、2004年に設置された学識経験者や行政機関で構成される会議。この委員会の下には、目的別に3つ(エゾシカ・ヒグマ、海域、適正利用・エコツーリズム)のワーキンググループと1つ(河川工作物)のアドバイザー会議が設置されている。

(注3)日本では野生鳥獣を保護する法律として、「鳥獣保護法」が長年運用されてきたが、2014年5月に改正され、「鳥獣保護管理法(正式名称:鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」が成立。野生鳥獣の「管理」という考え方が初めて法的に取り入れられた。

 

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